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ドイツ人の代表が挑む「伝統を踏襲しながらも既成概念を崩す」波佐見焼

スタジオワニ(長崎県波佐見町)−波佐見焼
ドイツ人の代表が挑む「伝統を踏襲しながらも既成概念を崩す」波佐見焼

白磁に恐竜を描いた「dinosaur」シリーズ

 長崎県のほぼ中央に位置する長崎県波佐見町。同町を中心に窯元が集まる波佐見焼は400年以上の歴史を持つ。最近は製陶所の建物を若者向けに改装した器のショップや波佐見焼を使う飲食店などが軒を連ねる地域もあり、県外から訪れる若者も珍しくない。

 スタジオワニ(長崎県波佐見町、綿島ミリアム代表、050・3558・5698)は、一品ずつの手作りにこだわる工房だ。ドイツ出身の代表と夫の健一郎さんが2017年に設立した。

 夫妻は有田窯業大学校(佐賀県有田町)を卒業し波佐見焼の窯元で絵付けや釉薬(ゆうやく)の技術を学んだ。この地を拠点に選んだ大きな理由は“自由”。等身大を受け入れてくれるという雰囲気が気に入った。

 成形にはろくろを使うが、分業体制の窯元では希望する作業に専念して腕を磨くことが難しかった。そこで独立を決意し、すべての工程を単独で手がける道を選んだ。

 二人の創作意欲は旺盛だ。健一郎さんが「伝統を踏襲しながらも既成概念は崩したい」と語り、ミリアム代表は「伝統を模しただけでは意味がない」と個性を重視する。初のシリーズ「dinosaur(ダイナソー)」は白磁に恐竜を描いた器。古典というイメージからの連想がはるか昔に行き着いた。

 これまでは焼成工程で公的機関や地元窯元の協力を得てきた。しかし12月24日には念願のガス釜を整備した工房とギャラリーをオープンする。作って紹介するだけの場所ではなく「人が集まる場所にしたい」という二人。手作りオーナメントのワークショップや英会話教室など夢は膨らむ。カメラを使って絵付け作業中の手元をリアルタイムでプロジェクターに映し出す計画も練る。

 大量生産の低価格品が出回る器市場で少量の手作り品は比較的高額になる。「どうすれば選んでもらえるか。付加価値を付けていく」と自分たちにしかできない製品作りを模索する。

一品一品手作りにこだわる綿島夫妻

【メモ】波佐見焼は約400年前に朝鮮人陶工が登り窯を築き、陶器と磁器を焼き始めたのが起源とされる。隣町の有田焼が幕府に献上する高級品の流れを持つ一方で波佐見焼は日常食器として広く庶民に流通。「くらわんか碗」と呼ばれた。唐草模様を描いた丈夫で厚手な器が多い。波佐見町にある肥前波佐見陶磁器窯跡は「日本磁器のふるさと肥前」の構成遺産として文化庁の日本遺産に認定されている。
日刊工業新聞017年10月27日
昆梓紗
昆梓紗 Kon Azusa デジタルメディア局DX編集部 記者
波佐見焼が好きで少しずつ集めています。最近、伝統と新しい形や絵柄を組み合わせた焼き物作家がたくさん出てきており、モダンな柄も多く、普段使いでもしっくりきます。どれもかわいくて迷ってしまいます。

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