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ほとんどがサラリーマン選手、「ジェイテクト スティングス」が強くなった一体感

V・プレミアリーグ開幕
ほとんどがサラリーマン選手、「ジェイテクト スティングス」が強くなった一体感

コートで戦闘モードの高橋現コーチ兼選手

 ジェイテクトの男子バレーボール部「スティングス」は、「V・プレミアリーグ」の2016/17年シーズンを3位で終えた。プレミア昇格から4年目での3位入りはリーグ初の快挙だ。

 バレー専業の選手で固める他チームをよそに、意外にもスティングスは選手のほぼ全員が一般社員と同じ仕事を掛け持つ。仕事とバレーの兼務は不利なように思えるが、早野容司GMは引退後のセカンドキャリアを充実させ、「選手が定年退職するまでしっかりと面倒を見たい」とバレー選手としてだけでなく、会社員としても一流の人間に育てたいと手を尽くす。

 日本最高峰リーグのプレミアはバレー専業のチームが普通だ。スティングスのような兼務は極めて珍しい。選手たちは、午前中、それぞれの職場で働き、14時30分に練習を始める。

 高橋慎治主将(現コーチ兼選手)は旭化成、NECのバレー部を経て、2009年に28歳で社員選手としてスティングスに入団。配属先で人生初のオフィスワークを経験した。

 「入社してしばらくは電話に出るのが怖かった」と振り返り、苦笑する。前職、前々職とバレー中心の会社生活を送ってきただけにギャップは大きく、入社間もない年下の社員に仕事を教えてもらうことも多かった。

 選手たちにとって、引退後の人生をどう充実させるかは切実な問題だ。全日本選手になり、生涯にわたりバレーを職業にできるのは「ほんの一握り」だと、増成一志監督(現総監督)は言う。多くは引退後、所属する会社で一般社員として働くことになる。ジェイテクトのように現役時代から業務経験を積み、仕事に精通しておくことはセカンドキャリアの形成に有効だ。

 一方、企業としてスポーツに取り組む以上、「強くなければ会社に認められない」(早野GM)のも当然だ。そこには兼務だからという言い訳は通用しない。

 オフィスワークについても同じだ。職場での仕事、練習の両面で時間が少ないように思えるが、仕事は「量より質」(同)を重視し、練習は「午後にまとまってしまう分、集中力が途切れないような内容にしている」(増成監督)と工夫を欠かさない。

 初の3強という成果が認められたこともあり、この春にはチーム本拠地の練習施設が刷新された。これまではどこの体育館にもあるようなあの床張りコートだったが、公式戦と同じシートが施されたコートに生まれ変わった。

 これで実戦の環境で練習できる上、故障や選手寿命を短くする腰や膝などの負担を減らせる。筋力トレーニングの設備も「味の素ナショナルトレーニングセンター」並みにアップグレードされた。

 会社が認めたのは戦績だけではない。企業チームは広告宣伝や社員の士気高揚の役割を担うが、スティングスはジェイテクトのチームならでは使命を持つ。「一体感の醸成」(早野GM)だ。

 同社は旧光洋精工と旧豊田工機が06年に合併し、誕生した。16年のイメージキャラクターだった市川海老蔵さんがCMで言っていた“歴史ある若い会社”だ。バレー部は豊田工機を母体とするが、あえて光洋精工のコーポレートカラーだったブルーを配したユニフォームをまとう。スティングスは統合会社ジェイテクトの象徴なのだ。

 全国を転戦し、各地の従業員が応援に駆け付ける。試合翌日の月曜日には、生産性が上がることがあるのだとか。チームのこうした貢献度は大きい。

 昼間はオフィスワークをするチームが、最高峰のリーグで好成績を残し、さらに上を目指している。企業スポーツの新しいモデルになりそうだ。
※カッコ内は現在の役職を記載
2017年6月30日の日刊工業新聞記事を加筆修正
六笠友和
六笠友和 Mukasa Tomokazu 編集局経済部 編集委員
 取材をアレンジしてくれた角田辰徳元選手(現広報部)が引退したのは35歳前。「長持ちした方ですね」と高橋コーチ兼選手と笑っていました。選手としてより、引退後の人生が長いのは当然です。セカンドキャリアを見据えたチーム運営が評価され、それを理由に入団を希望する学生、選手が増えているそうです。最高峰リーグでまれな取り組みが、選手層を厚くし、強いチームづくりに役立っているようです。  ところで、V・プレミアリーグが10月21日に開幕しました。スティングスは10月22日の初戦を堺ブレイザーズ相手に3ー1で勝ち、アーマツ・マサジェディ監督の初陣を飾っています。

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