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相次ぐ発火事故…リチウム電池、安全に使うにはどうすればいい?対策は?

メーカーとユーザー、一緒に防ぐ意識を
相次ぐ発火事故…リチウム電池、安全に使うにはどうすればいい?対策は?

モバイルバッテリーの事故品(NITEのプレスリリースより)

 ソニーが世界で初めて商品化してから26年。リチウムイオン電池の存在感は年々増している。パソコンや携帯電話、電気自動車(EV)向けなど用途は広がり、最近では民生部門にとどまらず、電力供給などインフラ分野への応用も見込まれている。用途拡大、高性能化という期待が大きい半面、相次ぐ発火事故といった「負の側面」も問題視されている。リチウムイオン電池は安全か―。事故の原因を分析しながら、その安全性を検証する。

原因特定難しく “劣化の予兆”注意


 製品評価技術基盤機構(NITE)の酒井健一専門官は「容量が大きくなるとショートが起きて発火につながる事故は起きやすくなる。だが発火事故は電池の製造工程上の不具合で発生するため、大容量化が事故の原因ではない」と話す。

 そもそもリチウムイオン電池が発火する原因は複数ある。電池内の正極と負極を分離している「セパレーター」が充電の繰り返しなどで破損し、電極がショートする場合。また電池材料のコバルト酸リチウムが過充電により分解され、燃焼につながる場合―などが主な原因とされる。

 NITEの調査によると、リチウムイオン電池の事故の原因は、製品の不具合によるものが全体の78%にも上る。製造工程での異物混入などが要因と考えられるものの、燃え尽きてしまった製品の発火原因を特定するのは難しいという。

 一方で、NITEの酒井専門官は「メーカーが高品質な製品を作っても、ユーザーが不適切な使用をすれば事故は増える」と指摘する。

 リチウムイオン電池が使われている製品には、スマートフォンやノートパソコンといった小型で身近な製品も多い。そのため誤って水がかかったり、手から滑り落ちて変形したりした製品を使い続けると事故につながる危険性が高まる。充電ができないほか、放電時の発熱や膨張といった“劣化の予兆”が表れた電池の使用は避けるべきだ。

メーカーの工夫


 リコール(無料の回収修理)対象のバッテリーパックは、充放電を繰り返すことで事故のリスクがより高まる可能性がある。そうした危険性を下げようと、パナソニックはリコール対象のバッテリーパックへの充電を強制的に停止する措置を取っている。

 リコール対象のバッテリーパックが搭載されているパソコンを対象に、バッテリーパックの交換を求める「緊急のお知らせ」を表示。パソコンからリコール対象のバッテリーパックを取り外さずに使用し続けた場合、充電を強制的に停止する措置が始まる仕組みだ。

 ただ、スマートフォンの携帯用バッテリーなど、画面がない製品もある。そこで有力視されているのが、2次元コード(QRコード)の活用だ。

 TOTOは、商品にQRコードを貼り付けている。ユーザーがQRコードを読み取って氏名や住所などを登録すると、同社はどの場所にどういった製品があるかが分かる。そうした情報は、定期点検の案内などに活用できる。

   

 同社が手がけるのはコンセントからの給電で動く製品が大半で、リチウムイオン電池はほとんど使われていない。だが、こうした取り組みが一般的にリチウムイオン電池が使われている製品にも広がれば、安全対策に役立つ可能性がある。

 2009年には、経年劣化による事故を防ぐため、石油給湯機や浴室用電気乾燥機などの安全に関する「長期使用製品安全点検制度」が設けられた。

 同制度には所有者情報の登録をはじめ、メーカーから点検の通知が届いた場合には、異常がなくても必ず点検を受けることなどが盛り込まれている。TOTOも同制度の新設を受け、同年からQRコードを使った顧客情報の把握を始めた。

 だが課題もある。同制度では、所有者がメーカーなどに対して情報提供をしなかった場合の措置が定められていない。TOTOの場合は全体の3割程度しかユーザー登録がされていないというが、情報提供への強制力がないことが理由として考えられる。

 同社お客様本部商品技術部の駒谷直樹担当部長は「製品の安全対策は進んでいるが、ユーザー登録によって、メーカーも消費者も安全をさらに確保できる。専門家が点検するメリットを伝える啓発活動を、今後も続けていきたい」と話す。

正しく使う―限度超えても使える…/充電器の発火急増


 リチウムイオン電池が使用されている製品には、本体に使用回数の目安が貼られている場合もある。だが、使用回数を超えてもある程度は使えてしまうのが現状だ。さらに、「充電する度に数が減っていき、0になったら使用期限だということが分かるような製品は今のところない」(NITEの酒井専門官)という。

 バッテリー本体だけでなく、充電器の事故も増えている。NITEの調べではスマホ充電器の発煙・発火事故などは2016年度に51件で過去最高。12年度からの5年間での累計は108件で、ここにきて急増している。

   

(文=福沢尚季)
日刊工業新聞2017年10月20日深層断面一部抜粋
日刊工業新聞記者
日刊工業新聞記者
 発火事故を防ぐためにはトレーサビリティー(履歴管理)の徹底をはじめ、ユーザー情報の把握や強制的に充電ができなくなる仕組みなど、さまざまな安全対策が必要と言える。ユーザーによる使用方法の順守と、メーカーの安全対策が両立しなければ、事故を完全に防ぐことはできない。 (日刊工業新聞社編集局第二産業部・福沢尚季)

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