習体制2期目へ。「次世代台頭で潮目変わる」
経済は正念場、テコ入れ必要
中国の政治イベントで最も重要な「中国共産党第19回全国代表大会(党大会)」が18日に開幕する。前回の第18回党大会で総書記に就いた習近平氏は1期目(5年)で別格の指導者を指す“核心”の地位を得て権力基盤を固めた。2期目はバブルの指摘もある経済をいかにかじ取りするかが注目される。中国経済の専門家に今後の行方を占ってもらった。
―習近平政権の1期目の評価は。
「2012年に習氏が登板した時期は、経済の軌道修正が必要なタイミングだった。08年のリーマン・ショック後に実施した4兆元(57兆円)の景気対策は不動産などへの投資バブルを生み、誰の目にもやりすぎだった。政権発足当初は李克強首相が“リコノミクス”と称して投資頼みの成長から生産性を上げる成長への転換を試みた。だが不発に終わった」
―その後に成長率の低下も容認する“ニューノーマル”政策にかじを切りました。
「首相では力不足だと習氏自ら腰を上げ、ニューノーマル路線を敷いた。これは14、15年と続いたが、地方政府などでは不景気に対する怨嗟(えんさ)の声が渦巻いていた。強権と言われる習氏といえども、体制内で不満の声が多数を占めると、その声を無視できなかった。結果的に16年になり、地方政府を中心に再び借金頼みの大規模投資が行われてしまった」
―今後の中国経済をどう見通しますか。
「中国の中には重厚長大産業を中心にした官頼みのオールドエコノミーと、IT業界を中心にした官に頼らないニューエコノミーが同居している。最近のニューエコノミーの若い世代の中には、共産党が介入しようとするほど経済が悪くなると見る人が増えてきた」
「今回の党大会では最高指導部人事が関心を呼んでいるが、その下層の中央委員(200人)の人事も重要だ。米国の研究者によると、今大会で中央委員の7割が新任となり、60年代生まれが省トップや大臣クラスで多数派になるという。習氏含む50年代生まれは文化大革命世代で、大学教育をまともに受けていない」
「だが、60年代生まれは18歳になった78年に大学教育が再開され、外国語を話す者も少なくない。こうした60年代生まれ以降の世代やニューエコノミー世代が指導者層の多数派を占めると、中国は経済も政治も潮目が変わるかもしれない」
―直近では鉄鋼業界で供給過剰問題が解消に向かっていると評価する声があります。
「確かに地条鋼(粗悪な鋼材)を生産していた工場は、かなり閉鎖に追い込まれたが、そのやり方は乱暴だったと聞く。これは供給サイド改革が効果を上げたというよりも、大気汚染に対する国民の不満が行政を突き動かした結果ではないか」
―日本企業は中国とどう付き合っていけばいいでしょうか。
「中国のニューエコノミーは、日本を上回るスピードで劇的な発展を遂げている。気がかりなのは“先頭集団”の競争についていけない日本の企業・業種が増えつつあることだ。このままでは日本が埋没すると危機感を抱いている」
―今回の共産党大会で注目している人事は何ですか。
「習近平主席の腹心である王岐山中央規律検査委員会書記(69)の処遇だ。本来なら68歳の定年に引っかかるが、反腐敗運動で成果を上げ、第1期習政権で最大の功労者だった。仮に留任すると、王氏は元々エコノミストだったこともあり、手腕を買われて経済を統括する首相のポストに就く可能性がある」
「王氏が2期目に残れなければ、習政権にとって痛手だ。習氏の基盤である反腐敗運動の力が弱まることを意味する。一方、李克強首相は目立った実績を挙げられなかった。李氏は全国人民代表大会常務委員会委員長(国会議長)といった名誉職に就くだろう」
―習氏の1期目の経済政策は失敗したのでしょうか。
「反腐敗運動による基盤固めに重点を置き、経済には心あらずだった。有効な経済政策は打てていない。しかし、2期目も経済で実績を挙げることができなければ、国民の支持は下がるだろう。習氏の3期目はないかもしれない」
―経済で実績を挙げるとは何を指しますか。
「中国は7%近い経済成長を遂げているが、国民の手取り賃金は成長率ほど伸びていない。つまり国民は成長を実感できていない。習氏の2期目は、短期的には低所得者の賃金を底上げするために、金融緩和や公共投資による景気のテコ入れが必要だろう」
「統計上、中国の公的債務の対国内総生産(GDP)比率は、200%を超える日本ほど多くない。統計の信ぴょう性の問題は残るが、まだ日本よりは景気刺激に投じる予算はある」
―再び景気のアクセルを踏むことに疑問の声もありますが。
「他にボトムアップを図る有効な手だてはない。これは短期の話だ。しかも、公共投資はこれまでのように無駄な鉄道や道路などのハードインフラに投じるのではなく、5G(第5世代移動通信システム)といった高度な通信やソフトインフラにあてるべきだ」
「もちろん公共投資頼みは持続可能ではない。中長期的には技術革新を促し、次世代産業の育成が不可欠だ。幸い、中国には輸出を拡大するプラットフォーム『一帯一路(新シルクロード経済圏構想)』がある。既存の古い製品ではなく、新しい製品をどんどん輸出していくべきだ」
―日本企業は中国戦略をどう描けばよいですか。
「中国は、かつての生産基地から消費市場としての意味合いが一段と強まる。今後5―10年で日本企業は工場のリストラ(再構築)を行い、代わりに優秀な販売担当者を雇い、攻めのマーケティング(広告・宣伝)が必要になる」
津上工作室代表・津上俊哉氏
―習近平政権の1期目の評価は。
「2012年に習氏が登板した時期は、経済の軌道修正が必要なタイミングだった。08年のリーマン・ショック後に実施した4兆元(57兆円)の景気対策は不動産などへの投資バブルを生み、誰の目にもやりすぎだった。政権発足当初は李克強首相が“リコノミクス”と称して投資頼みの成長から生産性を上げる成長への転換を試みた。だが不発に終わった」
―その後に成長率の低下も容認する“ニューノーマル”政策にかじを切りました。
「首相では力不足だと習氏自ら腰を上げ、ニューノーマル路線を敷いた。これは14、15年と続いたが、地方政府などでは不景気に対する怨嗟(えんさ)の声が渦巻いていた。強権と言われる習氏といえども、体制内で不満の声が多数を占めると、その声を無視できなかった。結果的に16年になり、地方政府を中心に再び借金頼みの大規模投資が行われてしまった」
―今後の中国経済をどう見通しますか。
「中国の中には重厚長大産業を中心にした官頼みのオールドエコノミーと、IT業界を中心にした官に頼らないニューエコノミーが同居している。最近のニューエコノミーの若い世代の中には、共産党が介入しようとするほど経済が悪くなると見る人が増えてきた」
「今回の党大会では最高指導部人事が関心を呼んでいるが、その下層の中央委員(200人)の人事も重要だ。米国の研究者によると、今大会で中央委員の7割が新任となり、60年代生まれが省トップや大臣クラスで多数派になるという。習氏含む50年代生まれは文化大革命世代で、大学教育をまともに受けていない」
「だが、60年代生まれは18歳になった78年に大学教育が再開され、外国語を話す者も少なくない。こうした60年代生まれ以降の世代やニューエコノミー世代が指導者層の多数派を占めると、中国は経済も政治も潮目が変わるかもしれない」
―直近では鉄鋼業界で供給過剰問題が解消に向かっていると評価する声があります。
「確かに地条鋼(粗悪な鋼材)を生産していた工場は、かなり閉鎖に追い込まれたが、そのやり方は乱暴だったと聞く。これは供給サイド改革が効果を上げたというよりも、大気汚染に対する国民の不満が行政を突き動かした結果ではないか」
―日本企業は中国とどう付き合っていけばいいでしょうか。
「中国のニューエコノミーは、日本を上回るスピードで劇的な発展を遂げている。気がかりなのは“先頭集団”の競争についていけない日本の企業・業種が増えつつあることだ。このままでは日本が埋没すると危機感を抱いている」
つがみ・としや 80年(昭55)東大法卒、同年通商産業省(現経済産業省)入省。96年在中国日本大使館経済部参事官、00年通商政策局北東アジア課長、02年経済産業研究所上席研究員。04年東亜キャピタル社長。12年津上工作室代表。愛媛県出身、60歳。
富士通総研経済研究所主席研究員・柯隆氏
―今回の共産党大会で注目している人事は何ですか。
「習近平主席の腹心である王岐山中央規律検査委員会書記(69)の処遇だ。本来なら68歳の定年に引っかかるが、反腐敗運動で成果を上げ、第1期習政権で最大の功労者だった。仮に留任すると、王氏は元々エコノミストだったこともあり、手腕を買われて経済を統括する首相のポストに就く可能性がある」
「王氏が2期目に残れなければ、習政権にとって痛手だ。習氏の基盤である反腐敗運動の力が弱まることを意味する。一方、李克強首相は目立った実績を挙げられなかった。李氏は全国人民代表大会常務委員会委員長(国会議長)といった名誉職に就くだろう」
―習氏の1期目の経済政策は失敗したのでしょうか。
「反腐敗運動による基盤固めに重点を置き、経済には心あらずだった。有効な経済政策は打てていない。しかし、2期目も経済で実績を挙げることができなければ、国民の支持は下がるだろう。習氏の3期目はないかもしれない」
―経済で実績を挙げるとは何を指しますか。
「中国は7%近い経済成長を遂げているが、国民の手取り賃金は成長率ほど伸びていない。つまり国民は成長を実感できていない。習氏の2期目は、短期的には低所得者の賃金を底上げするために、金融緩和や公共投資による景気のテコ入れが必要だろう」
「統計上、中国の公的債務の対国内総生産(GDP)比率は、200%を超える日本ほど多くない。統計の信ぴょう性の問題は残るが、まだ日本よりは景気刺激に投じる予算はある」
―再び景気のアクセルを踏むことに疑問の声もありますが。
「他にボトムアップを図る有効な手だてはない。これは短期の話だ。しかも、公共投資はこれまでのように無駄な鉄道や道路などのハードインフラに投じるのではなく、5G(第5世代移動通信システム)といった高度な通信やソフトインフラにあてるべきだ」
「もちろん公共投資頼みは持続可能ではない。中長期的には技術革新を促し、次世代産業の育成が不可欠だ。幸い、中国には輸出を拡大するプラットフォーム『一帯一路(新シルクロード経済圏構想)』がある。既存の古い製品ではなく、新しい製品をどんどん輸出していくべきだ」
―日本企業は中国戦略をどう描けばよいですか。
「中国は、かつての生産基地から消費市場としての意味合いが一段と強まる。今後5―10年で日本企業は工場のリストラ(再構築)を行い、代わりに優秀な販売担当者を雇い、攻めのマーケティング(広告・宣伝)が必要になる」
か・りゅう 88年(昭63)来日。92年愛知大法経卒、94年名古屋大院経済学修士修了、同年長銀総合研究所入所。98年富士通総研経済研究所へ移籍、現在は主席研究員。中国・南京市出身、53歳。
日刊工業新聞2017年10月13日