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なぜ、沖永良部島は「お金の自足」を選んだのか

「第8回沖永良部シンポジウム」で地域金融導入を決定
なぜ、沖永良部島は「お金の自足」を選んだのか

島の子どもたちが描いた絵の前で、島の未来を議論



第8回沖永良部シンポジウム


石田秀輝氏「子や孫が大人になったときにも光り輝く美しい島つくり~今考えなければならないこと~」


(地球村研究室代表/東北大学名誉教授/酔庵塾塾長)

 これから2030年という、大きな節目を超えられるかを考えなければならない。石油価格が現在の2倍になるとされ、輸入価格も上がる。温暖化による平均気温上昇で作物は採れず、生物も大絶滅する。途上国の成長は鈍くなり、均一化によるグローバル資本主義が限界を迎えると考えられている。

 都会に食糧やエネルギーを送っているのは地方だ。そのため、ローカルが豊かでなければ日本の豊かさはない。都会と地方の位置関係が変わらなければならない。地方は決して東京の受け皿ではない、という時代を我々がつくる必要がある。

 原点は自足にある。島でできることを少しでもやろうということ。補助金で他地域から人を奪っても豊かにはならない。人口減の制約は認め、その上でわくわくできる楽しい暮らしを考えるべきだ。

 沖永良部島には豊かな文化の価値観が残る。「自然」の上に「食」「集い」「遊び」の柱が立ち、「仕事」が横串を刺す。ワークとライフがオーバーラップしている。「しまんちゅ(島民)」が自足することで仕事は増え、お金も島内で回る。島民が島の魅力を学び、島民のための観光に取り組めば、結果として憧れの島となり外から人がやってくる。

 これまで酔庵塾ではお金の話は避けてきた。だが、いろいろと具体的に動き始めたことで、お金がないために事業を断念することも出てきた。そこでローカルファイナンスの仕組みをつくりたい。島でのお金をどう考えるか議論したい。

 また、これまで島で活動してきた8年の過程を教科書としてまとめる。他地方や南太平洋の島しょ国に考え方を広げたい。道は長いがお付き合いいただきたい。

吉澤保幸氏「『心豊かな暮らし』を支える温かなローカルマネーフローの創出へ」


(場所文化フォーラム代表幹事)

 日銀で20年間、グローバルマネーに関わり、ここ15年は場所文化フォーラムを立ち上げてローカルマネーフローをいかにつくるか模索してきた。ようやく時代と主張がかみ合い、具体的な形として全国で実装しつつある。

 日本再生のアプローチには四つの連立方程式がある。それは地域内資源の循環としての「エコビレッジ構想」、地域資源の再創造である「森里川海プロジェクト」、地域人財の育成とシビックプライドの醸成である「子ども達、若者が主役」。そして、新たな公共と温かいお金として「住民主体による新たなまつりごと」である。

 最終的に「新しいまつりごと」、つまり地域で金融インフラをつくることが、地域創生を持続的に回す仕組みだ。従来型金融は限界で、補助金に頼る行政も無理になった。

 地方は都会に資源を吸い上げられ、補助金で戻ってくる依存の構造にある。また都会のモノを買うことで、お金が地方から外に出る。エネルギーも同様で、エネルギー自給は地域が自立するための一丁目一番地だ。

 やるべきことは資源の再生。時間はかかるが、その過程で地域創生ができる。農林漁業、環境、教育、医療介護はグローバルマネーに翻弄(ほんろう)されてはいけない。

 金融の世界ではESG(環境・社会・ガバナンス)重視の投資やローカルファイナンスなど大変革が起きている。沖永良部はその変革の最先端にある。

 島の未来をつくる事業構想が多く具体化し、補助金ではないお金が必要とされている。孫の代に向けた、社会的投資をしたいというニーズも表出している。今こそ、基金の立ち上げを真剣に議論するフェーズ。大人には3世代後の未来に向けて果たす責任がある。

野池雅人氏「お金の流れが地域を変える―京都発ローカルファイナンスの実践から―」


(プラスソーシャルインベストメント社長)

 金融会社を設立し、事業を進めているが、もとは金融とは関係のない民間非営利団体(NPO)での活動がスタートだった。

 紹介する3事例の一つ目は、2008年に設立した京都地域創造基金。NPO活動の中で、人とアイデアはあっても活動を良くするお金が得にくいことを痛感して設立した。

 地域では金融機関のお金が域内に回らず都会へ流出する。そこで、地域に社会的商品をつくり、お金を循環させる結節点が必要だった。3000円の寄付を市民1000人から集めることから始め、09年に公益財団法人となった。地域基金の必要性は11年の東日本大震災で顕在化した。

 2例目はプラスソーシャルという、社会的投資を行う非営利型の株式会社。エネルギー問題に正面から取り組み、兵庫、和歌山、京都を中心に7カ所で太陽光発電と小水力発電を運営している。

 民間の投融資だけで補助金に頼らず運営。利潤は株主に分配せず、公益財団や自治体の景観保全活動などに寄付する。龍谷大学から総額7億2000万円の社会的投資を受けることにもなった。

 3例目が社会的投資の専業企業として16年に設立したプラスソーシャルインベストメントだ。これまでの私募債での出資ではなく、より多くの個人や法人がファンドに出資できる仕組みをつくった。

 地域の事業創出を誘発するお金の流れをつくることが理念だ。8月に金融免許が下り、全国で寄付や投資で応援できるようになった。投資家へのリターンは1%ほど、商品で返すこともある。債権や証券として地域金融機関での販売も見込む。

 金融は互いにお金を融通して助け合うことで生まれた。そのような金融を取り戻そうというのが、ローカルファイナンスや地域金融など現在の流れだと考えている。
日刊工業新聞2017年10月4日
三苫能徳
三苫能徳 Mitoma Takanori 西部支社 記者
沖永良部島は西郷隆盛が流され、「敬天愛人」に目覚めたとされる島です。 私がシンポジウムを取材するのは2回目。この1年間だけ見ても、前回提案された課題解決策がきちんと実現しているなど、着実に取り組みが進んでいると感じます。島が持つ自然の魅力そのままに、何よりも本人たちが楽しみながら自然体で進められているところに好感を持ちます。一方、地域金融というツールを得ることで、事業性というシビアな部分を考えざるをえない部分も出てきます。“楽しさ”とのバランスをうまくとりつつ、さらに魅力が増した沖永良部になることに期待します。

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