ノーベル物理学賞受賞の天野氏「中国にパワーゲームでは勝てない」

どうなる?日本の科学(5)名古屋大学教授・天野浩氏

 ―受賞前後で研究環境は変わりましたか。
 「大きく変わった。毎年予算を取らないと研究が続かなかったが、各省庁からサポートを受けるようになって比較的安定した。私の関心も広がり、国家予算について考えられるようになった。大学など高等教育の無償化は欧州で進んでいる。このままでは日本が遅れていく。世界との競争についてきちんと議論すべきだ」

 ―海外は科学技術に積極的に投資し、日本は相対的に地位を落としています。巻き返し策は。
 「中国の人口は10倍だから、優秀な人材も10倍いる。パワーゲームでは勝てない。実用研究は大学と産業界が組織的に対抗すべきだ。競争が激しくなり、企業単独では限界がある。大学を中心に企業が集まって中核技術を研究し、製品化に近い開発は各企業が進める組織連携が必要だ」

 「これまでの日本の大学は要素技術や研究しか見ないことがあったが、大学は変わった。産業界とビジョンを共有し、必要に応じて研究者を集めて体制を構築する取り組みが増えた。これまで大学の技術シーズや研究者の中からできることを探していた。これからは技術を垂直統合的に連携し、技術の成熟度に応じて基礎や応用の研究者が分担する」

 ―大学の技術戦略部門が重要ですね。
 「ビジョンの共有や知財戦略など、各大学の強みや特色が現れる部分だ。また研究を評価する人材を育てないといけない。現在は企業や研究機関をリタイアしたベテランが担っており、若い人材を育てる仕組みが必要だ。組織連携がその器になる。学生は企業の視点を学び、企業技術者は大学で異分野の研究者と交流できる。自身の研究を進めながら周辺技術の動向を学べる」

 ―若手研究者へのメッセージを。
 「学生たちは皆賢く、打率の高い確実な研究を選んでくれることが多い。ただ、本音を言えば新しいアイデアを出してどんどんチャレンジしてほしい。どんな未来を創りたいか逆算して研究を考え、その分野で自分たちが中心となってリードしてほしい」

 ―若手は研究目的が決まったプロジェクトでの雇用が多く、自由度が少ないです。
 「プロジェクトと並行して別予算をとるなど、複数のテーマを進めてほしい。時間のすべてを一つのプロジェクトに支配されないよう、雇用を柔軟にすべきだ。多様なアプローチが企業では難しい新事業創成の後押しとなる」

日刊工業新聞2017年10月3日

小寺 貴之

小寺 貴之
11月21日
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大学の研究と教育の両翼に組織連携が浸透しつつある。大学だけで大学院生や研究者を増やせばプロジェクト後のキャリアが課題になるが、産学連携で産と学で活躍できる人材を育成すれば解決する。そのためにはプロジェクトへの100%雇用でなく、複数の予算を持てた方がいい。若手をただ使うのでなく、若手に投資できる企業の発掘が望まれる。

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