4年連続誕生なるか。日本人ノーベル賞候補総ざらい

「オプジーボ」「重力波」「人工細胞膜」「ネオジム磁石」…それから

 毎年恒例のノーベル賞の受賞者発表まであと10日と迫った。自然科学3賞は、10月2日に生理学医学賞、3日に物理学賞、4日に化学賞がそれぞれ発表される。2016年には、東京工業大学の大隅良典栄誉教授が生理学医学賞を受賞しており、4年連続で日本人受賞者が誕生するか期待が高まる。有力候補者とその研究業績を紹介する。

 生理学医学賞では、体内の異物に抵抗する免疫ブレーキ役のたんぱく質「PD―1」を発見した京都大学の本庶佑(たすく)特別教授が有力候補。PD―1の働きを抑えれば、免疫細胞によるがん細胞への攻撃が再活性化することを発見し、これを応用した小野薬品工業の抗がん剤「オプジーボ」の開発につながった。

 がん細胞周辺の血管の隙間から高分子化合物が通過し、がん組織へ蓄積する効果(EPR効果)を発見した崇城大学DDS研究所の前田浩特任教授と、国立がん研究センターの松村保広分野長も有力候補だ。がん組織を狙って攻撃できるため副作用が少ないとされる、薬物送達システム(DDS)の開発につながった。

 コレステロールを下げる薬の開発につながった物質「スタチン」を発見した東京農工大学の遠藤章特別栄誉教授も有力だ。

 海外勢では、現在最も勢いのある研究の一つ、全遺伝子情報(ゲノム)を自在に変えられるゲノム編集技術の一種「クリスパー・キャス9」が注目だ。

 物理学賞は日本勢ではないが、時間と空間の歪みが波のように伝わる現象「重力波」の観測が受賞の最有力候補。15年9月に米国の研究グループが重力波望遠鏡「LIGO」(ライゴ)で重力波を初検出、「重力波天文学」という新しい分野を切り開いた。重力波は「アインシュタインの最後の宿題」と言われており、いずれノーベル賞を受賞するのは確実とされている。

 日本人では、東京工業大学の細野秀雄教授が有力候補。鉄の超電導現象を発見し、世界に衝撃を与えた。他にも酸化物半導体「IGZO」や電気を通すセメントの開発などの業績を挙げている。

 また東京大学の十倉好紀教授は、電気と磁気の性質を備えメモリーデバイスへの応用が期待される「マルチフェロイック物質」を発見。東大は3月にノーベル賞級の業績を持つ教授として「卓越教授」を授与し、受賞に期待をかけている。

 磁石の性質を持つ半導体「磁性半導体」の第一人者、東北大学の大野英男教授にも注目が集まる。現在、高性能で低消費電力の集積回路の実現を目指している。

 化学賞は有機化学や生体分子科学、物質材料など、幅広い分野から選ばれる。16年に有機化学分野の「分子機械」が選ばれたため、17年は生化学や材料などの研究者が有力だ。

 九州大学の國武豊喜特別主幹教授は人工的な細胞膜を作成、人工細胞や膜たんぱく質などの研究が進展した。細胞では脂質分子が二重膜を作り、外界と内部を隔てる。この膜は極めて破れやすく、人工的に再現するのは不可能と思われていた。

 NDFEB(京都市左京区)の佐川眞人社長が82年に開発したネオジム磁石は30年以上、最強の座に君臨している。ネオジム磁石でモーターの力が増し産業用ロボットは油圧から電動に切り替わった。ハードディスク駆動装置(HDD)の読み出し装置や車載モーターにも応用される。

 次世代太陽電池「ペロブスカイト太陽電池」を発明した桐蔭横浜大学の宮坂力特任教授、光触媒を発明した東京理科大学の藤嶋昭学長、リチウムイオン電池の発明者の一人、旭化成の吉野彰顧問も有力だ。
京大の本庶特別教授の成果が「オプジーボ」につながった

(文=安川結野、冨井哲雄、小寺貴之)

日刊工業新聞2017年9月22日

明 豊

明 豊
09月23日
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 以前、ベルギー出身でノーベル物理学賞(2013年)を「ヒッグス粒子」で受賞したフランソワ・アングレール氏にインタビューしたことがある。その時のアングレール氏の若い研究者へのメッセージが今も心に残っている。
 「40年前と現在では違いもある。できるだけ早く成功することへの社会からのプレッシャーも強い。選択できる独立性を持つことが重要で、本当に自分が好きで好きでどうしようもない研究をすることだ。そこから幸せが生まれてくる。基礎だろうが応用だろうが関係ない。私はできれば仕事をしたくない。仕事と感じるとつまらないので、ゲームのような気持ちでいる」と。
 アングレール氏は、南部陽一郎さんと深い絆で結ばれていた。南部氏と最初に会ったのは30歳の時。それをきっかけに研究にも大きな影響があったという。彼の大切にする「自由」の中に大切な「出会い」もあるのだろう。

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