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【伊佐山元】“半沢直樹”が残る日本のフィンテック、進む方向はこれだ!

日本の社会全体の課題はメガバンク、若い起業家はクールなサービスで
【伊佐山元】“半沢直樹”が残る日本のフィンテック、進む方向はこれだ!

WiL共同創業者CEOの伊佐山元氏


日米で銀行のステータスがまるで違う


 ―日本ではどのようなフィンテックに可能性がありますか?
 「日本の金融サービスで不便とされていることを一つ一つ解決していく他はない。ATMの設置コストをどうするかや、送金手数料の高さなど、フィンテックの技術を応用できる可能性はある。そのほか、高齢化が進んでいる日本ならではのサービスもあるだろう。ミレニアル世代が増加し続けている国とは自ずと異なる。フィンテックによってお金の流れを可視化することで、認知症の兆候に気付いたり、振り込め詐欺を防いだりするサービスが実現するかもしれない」

 「IT関係のコミュニティーは、どうしても同じ価値観で群れがち。日本の社会全体の課題とズレてしまうところがある。そういうところはメガバンクなど従来の企業が取り組むべき。その一方で若い起業家はクールなサービスで頑張り、棲み分ければ良い。おそらく日本ではフィンテック企業が従来の金融機関を破壊するようなことは起きないのではないだろうか」

 ―日本ではベンチャー企業が受け入れられにくいこともあるのでは?
 「ベンチャーへの投資はこの7年で15倍に跳ね上がっているが、フィンテック企業に関してはメガバンクなど大手企業と組んでいく形が良いのではないか。海外と比べると多様性がなく均質な社会である日本では、お互いの信頼感が重視される社会だ。まして金融は信頼性がもっとも必要とされる産業だ。そこではベンチャー企業はなかなか入り込みにくいだろう」

 「一方でフィンテック企業が日本でも増えていくことで、メガバンクなど金融業界の体質が変わるきっかけになれば良い。私は銀行出身だが、米国に行って驚いたのは、銀行のステータスが日本とまるで違うことだ。どんなサービスをしてくれるのかを見て、企業側が取引する銀行を選んでいる。金融機関はあくまで黒子で、偉いのは実際に事業を行っている側。“半沢直樹”的な世界が残っている日本とは正反対だが、本来はそうあるべきだろう。どんな産業でもそうだが、テックは業界の歪みや非効率性をなくしていくことにつながる」

ベンチャーの役割


 ―米国ではフィンテック企業への投資が落ち着いてきたようですが。
 「ちょうど一巡したところだろう。米国のベンチャーキャピタルは、ブームになると大量に資金を投下するが、そこから強い会社だけが生き残る。ドットコム企業の時もそうだった。バブルがはじけても死なないのが、ファンドマネージャーの腕の見せ所。ただブームに参加しないことには宝くじには当たらない」

 ―日本の状況はいかがですか。
 「日本でもフィンテックベンチャーが現れているが、まだまだ知る人ぞ知るという段階だし、ほとんどの企業がそれほど儲かっていない。これから大企業と手を組み収益力を高めていかなければならないが、時間はかかるだろう。ただ米国と違うのは、日本では大企業が社内でベンチャー(新規事業)に投資するケースが圧倒的に多いこと。欧米でベンチャーに対するM&Aが活発なのは、優秀な人材を獲得するのが最大の目的。いわば採用の代替。しかし日本では優秀な人の多くが大企業に入ってしまう。だからM&Aをする必然性がそもそも薄い。ただ大企業の中で本当にイノベーションを起こせるのかという課題は残る」

個人の時価総額で決まる社会


 ―フィンテックでは仮想通貨も話題ですが、バブルも懸念されます。
 「まだアーリーアダプターが手を出している段階。IT経営者が投資して儲かった話をしているぐらいで、ものすごく少ない人間が小さな祭りで盛り上がっている。まだ生活で使われているわけではないし、たとえバブルが弾けても経済全体が揺らぐようなことにはならない。ただ長い目で見れば、仮想通貨は金融インフラが整っていないところで受け入れられるかもしれないし、金と同じような資産となるかもしれない。国の通貨とは異なるニュートラルな通貨というのは直感的にはあり得るように感じるが、時間はかかるだろう」

 ―フィンテックなど新しい技術が社会を変えていく時、個人はどう生きていけば良いでしょう?
 「何を価値と考えるかを一人一人が考えないといけないだろう。技術は世界を平準化してしまう。そこで生き残るためにどのようなスキルを身につけなければならないのか。従来通りの国内だけで通用する生き方をしていると、市場は縮小していくだけ。そのような危機感を持てるかだ」

 「日本は未だに過去の貯金のおかげで、これまで大きな変化をせずに生活することができたが、これからは個人が国境なきグローバル社会で戦っていかなければならない。仮想通貨で資金を調達するICOが注目されるのも、結局は個人の時価総額で決まるような社会が到来しているからだ」
「何を価値と考えるかを一人一人が考えないといけないだろう」(伊佐山さん)


【略歴】
 伊佐山元(いさやま・げん)1973年(昭和48年)生まれ、東京都出身。東京大学法学部卒業後、日本興業銀行(現みずほフィナンシャルグループ)に入行。米国大手ファンドDCMを経て、2013年WiLを設立。シリコンバレーと日本を行き来しながら、ベンチャーの投資支援事業、企業内のイントレプレナーの育成などを通じてイノベーションの創出に取り組んでいる。
明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役デジタルメディア事業担当
今月の「METI Journal」の政策特集はフィンテック。初回は伊佐山さんが幅広い角度から分かりやすく解説してくれています。連載をお楽しみに。

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