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「1―2週間で東芝メモリの売却先を決めてもらえる」(銀行)って本当?

再び混迷、利害関係者の思惑交錯。日ごとに競争力を奪う
 東芝の半導体子会社「東芝メモリ」の売却プロセスが後退した。先週末、提携先の米ウエスタンデジタル(WD)などが参加する「新日米連合」との契約で大筋合意したが、詰めの調整が難航。31日には米ベインキャピタルと韓国SKハイニックスの連合や台湾・鴻海精密工業の3陣営との交渉継続を決めた。東芝、経済産業省が管轄する政府系ファンド・産業革新機構、銀行など日本勢の思惑も交錯し、視界不良が続く。

 「逆算するとタイムリミットだ」―。東芝の主要取引行関係者は8月中旬、いら立ちをみせた。東芝は2018年3月末までに東芝メモリを売却し、上場廃止となる2期連続の債務超過を避ける計画。独占禁止法の審査期間を考えれば、8月末が売却先決定の事実上の期限だった。

 東芝は6月21日、米ファンドのベインキャピタル、韓国SKハイニックス、産業革新機構などで構成する「日米韓連合」を優先交渉先に決定し、6月中に正式契約する計画を立てた。しかし、それ以前にWDが契約違反を主張し法的手段に訴えた。訴訟リスクが障害となり、契約交渉が進まないまま約2カ月が過ぎた。

 「8月末を過ぎると企業価値が下がる」と銀行は圧力をかけた。東芝はWDと再協議する姿勢に舵を切り、8月中旬から協議を本格化。先週末にはWDのスティーブ・ミリガン最高経営責任者(CEO)が来日し、東芝の綱川智社長とトップ会談した。

 WDは当初、東芝メモリを将来的に経営統合する考えを示していたが、8月の段階では譲歩し、歩み寄る姿勢をみせた。革新機構も評価し、WD、革新機構のほか米コールバーグ・クラビス・ロバーツ(KKR)、日本政策投資銀行を主軸とする「新日米連合」を売却先とする流れが加速した。
                   

“地雷”だらけ


 しかしWDの提案を精査すると問題が発覚した。新日米連合の提案ではWDは1550億円の転換社債を保有し、議決権比率を15%程度に抑える姿勢を示していたが、「実は将来、議決権を追加取得できるようにする“地雷”や“トンネル”だらけ」(東芝関係者)。経営に関与したいという根本的な姿勢に変化はなかった。

 議決権比率が20%を超えると独禁法審査が長期化し、18年3月末までの売却完了が困難になる。また日本勢で東芝メモリの経営を主導する「大命題」(交渉関係者)を脅かす恐れがある。

 「WDに独占交渉権を付与し一気に契約まで歩を進める」―。膨らんだ期待は、あっという間にしぼんでしまった。

 一方、30日までに米ベインやSKハイニックスが米アップルを加えた「新日米韓連合」が、新たな買収提案を出した。「訴訟リスクがあったとしても売却できるようにする仕掛けがある。面白い提案」と東芝関係者は関心を示す。

 仮にこの新提案が奏功し、新日米韓連合の方に振り子が振れれば、WDが将来の議決権追加取得を断念する譲歩案を示すかもしれない。

 ただ、交渉の過程で優先交渉先を日米韓連合から、新日米連合に切り替えたことで新たな火だねが生まれる懸念がある。ベイン、SKハイニックスからみると連合を組んでいた革新機構、政投銀に裏切られた形になる。

 ベインは共有していた情報の取り扱いなどについて抗議文を送ったという。また韓国の現地報道によるとSKハイニックスも優先交渉先を急に切り替えたことに対し東芝を非難する姿勢をみせている。

 東芝の主要取引行関係者は「1―2週間で(東芝メモリの売却先を)決めてもらえると認識している」と話すが、予断を許さない状況が続く。

追い風乗り切れず。サムスン、投資攻勢を加速


 東芝メモリの買収陣営の候補に、再び米アップルが浮上した。その背景には、スマートフォンなどに使われるNAND型フラッシュメモリーの

 需給逼迫(ひっぱく)がある。メモリーメーカーの関係者は「(顧客から)もっと供給してほしいと言われるが、なかなか追いつかない」とうれしい悩みを口にする。

 しかし、売却契約の合意が先延ばしになっている東芝は投資競争で出遅れ、好調の波に乗り切れていないのが実情だ。

 「日ごとに投資が遅れている」―。東芝メモリと取引する電子部品商社の幹部は、売却交渉が実ビジネスにも影響を与えていると実感している。8月、東芝は四日市工場(三重県四日市市)で建設中の第6製造棟への設備投資を、従来行ってきたWDとの共同投資ではなく、単独で実施することを決めた。

 本来は2―3カ月程度早い段階で投資スケジュールを決める予定だったが、売却交渉が難航して先送りになった。単独投資を決めたのは、年内の設備投資を実施するのにギリギリのタイミングだった。「(東芝本社がある)浜松町のもめ事を四日市に持ちこまないでほしい」(東芝メモリ関係者)。現場の本音が漏れる。
                  

(文=後藤信之、政年佐貴恵、渡辺光太)
日刊工業新聞2017年9月1日
政年佐貴惠
政年佐貴惠 Masatoshi Sakie 名古屋支社編集部 記者
 東芝が売却交渉で翻弄(ほんろう)される一方で、「ライバルの韓国サムスン電子は投資攻勢を一層、加速している」(電子部品商社幹部)。IHSテクノロジーによれば、サムスンは1―3月期に36・7%だったNANDメモリーシェアを、4―6月期に1・6ポイント増の38・3%に拡大。対する東芝は17・2%だったシェアが1・1ポイント減の16・1%に縮んだ。  東芝もWDも戦うべき相手はサムスンであることや、関係がこじれたままでは、ライバルにどんどん引き離されるリスクを十分に認識している。他陣営との交渉も並行するが「WDに重きを置くことは変わらない」(関係者)。売却交渉の混乱はライバルを利するだけでなく、日ごとに東芝の競争力を奪う。WDとの早期の歩み寄りが不可欠だ。

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