ジャズピアニスト執行役員が“音決済”、Technics復活への旋律
パナソニック・小川理子さんインタビュー「心の深淵に触れるため」
―著書『音の記憶 技術と心をつなげる』では2015年に復活させた高級オーディオ機器ブランド「テクニクス」の復活までの道のりに加え、自身の音楽に対する思い入れが印象的です。
「さまざまな挑戦と全力で走ってきたプロジェクトが解散になった時の失意。こうした会社人生を振り返り、テクニクス復活に込めた思いを中心に音楽活動を含めてつづった」
―母のおなかの中で聴いた曲が特別な感情を呼び起こすとつづっています。こうした体験がテクニクスへの思いの深さにつながっているのですか。
「あらゆる情報がデジタル信号にされる現代では、製品の差別化が難しい面がある」
「一方、音楽は音質の良さそのものに加え、その音楽を聴いていた頃の思い出といった心の深淵(しんえん)に触れることがある。いかに元のアナログの美しい映像や音へと戻し、人を感動させるかも命題になっている。もちろんこうした感動は、(高級オーディオの購入の中心である)中高年に限ったものではない。このようなテーマは今でも未解明な点が多い分、やりがいがある」
―途絶えた技術の蘇生に向け、OBの助けを借りるなどの苦労が書かれています。
「16年に発売したターンテーブル〈SL―1200GAE〉(テクニクスブランドの代表製品であるレコードプレーヤー)の開発ではOBを呼ばないと開発がままならないくらいだから、まさにマイナスからの出発だった。トーンアームという部品は何百点ものパーツを手作りで組み立てるため、納期がかかるなどの課題もあった。とはいえ、苦労しながら発売にこぎ着けたことで、自信も芽生えた」
―技術が進化する中で過去から変えなかった点と変えた点は。
「文化を次世代に継承したいという思いから、デザインは以前のものをほぼそのまま引き継ぐことを決めた。一方、モーターと制御技術は最新技術に刷新した。テクニクスの新製品には必ず何か新しい技術を採用する。こうした考えも過去から受け継いでいる部分だ」
「一方、これまで高級オーディオ機器といえば、大きいほど良いとされる風潮があった。だが、今はスマートフォンのように軽薄短小の流れにある。16年発売の小型機種〈OTTAVA(オッターヴァ)〉では女性をターゲットに、コンパクトでもよい音を出せることを訴えた」
―新製品の発表や発売の前には、ご自身で製品の完成度を確かめる「音決裁」があるそうです。
「私以外の全員が『これでいい』とOKを出しても、音決裁を通らないこともある。5月発売のターンテーブルでも、『ボーカルのつややかさが足りない』『低音をもっと強く出して』などと要求し、結果として14万円台とは思えない水準に到達したと思う」
―本書の最終章は、世界的なジャズピアニストでもある小川さんから次世代へのメッセージとなっています。仕事と趣味を高度に両立するこつはありますか。
「30分だけでもいいから質の高い練習時間を設けるなどして、練習が途切れないようにしている。末永く継続する点では、やり過ぎや頑張りすぎは逆によくない場合もある」
(聞き手=大阪・平岡乾)
【略歴】
小川理子(おがわ・みちこ)氏=パナソニック執行役員。86年(昭61)慶大理工卒、同年松下電器産業(現パナソニック)入社、音響研究所配属。14年パナソニック・アプライアンス社ホームエンターテインメント事業部テクニクス事業推進室長、15年パナソニック役員アプライアンス社常務、17年パナソニック役員兼アプライアンス社副社長。大阪府出身、54歳。>
「さまざまな挑戦と全力で走ってきたプロジェクトが解散になった時の失意。こうした会社人生を振り返り、テクニクス復活に込めた思いを中心に音楽活動を含めてつづった」
―母のおなかの中で聴いた曲が特別な感情を呼び起こすとつづっています。こうした体験がテクニクスへの思いの深さにつながっているのですか。
「あらゆる情報がデジタル信号にされる現代では、製品の差別化が難しい面がある」
「一方、音楽は音質の良さそのものに加え、その音楽を聴いていた頃の思い出といった心の深淵(しんえん)に触れることがある。いかに元のアナログの美しい映像や音へと戻し、人を感動させるかも命題になっている。もちろんこうした感動は、(高級オーディオの購入の中心である)中高年に限ったものではない。このようなテーマは今でも未解明な点が多い分、やりがいがある」
―途絶えた技術の蘇生に向け、OBの助けを借りるなどの苦労が書かれています。
「16年に発売したターンテーブル〈SL―1200GAE〉(テクニクスブランドの代表製品であるレコードプレーヤー)の開発ではOBを呼ばないと開発がままならないくらいだから、まさにマイナスからの出発だった。トーンアームという部品は何百点ものパーツを手作りで組み立てるため、納期がかかるなどの課題もあった。とはいえ、苦労しながら発売にこぎ着けたことで、自信も芽生えた」
―技術が進化する中で過去から変えなかった点と変えた点は。
「文化を次世代に継承したいという思いから、デザインは以前のものをほぼそのまま引き継ぐことを決めた。一方、モーターと制御技術は最新技術に刷新した。テクニクスの新製品には必ず何か新しい技術を採用する。こうした考えも過去から受け継いでいる部分だ」
「一方、これまで高級オーディオ機器といえば、大きいほど良いとされる風潮があった。だが、今はスマートフォンのように軽薄短小の流れにある。16年発売の小型機種〈OTTAVA(オッターヴァ)〉では女性をターゲットに、コンパクトでもよい音を出せることを訴えた」
―新製品の発表や発売の前には、ご自身で製品の完成度を確かめる「音決裁」があるそうです。
「私以外の全員が『これでいい』とOKを出しても、音決裁を通らないこともある。5月発売のターンテーブルでも、『ボーカルのつややかさが足りない』『低音をもっと強く出して』などと要求し、結果として14万円台とは思えない水準に到達したと思う」
―本書の最終章は、世界的なジャズピアニストでもある小川さんから次世代へのメッセージとなっています。仕事と趣味を高度に両立するこつはありますか。
「30分だけでもいいから質の高い練習時間を設けるなどして、練習が途切れないようにしている。末永く継続する点では、やり過ぎや頑張りすぎは逆によくない場合もある」
(聞き手=大阪・平岡乾)
小川理子(おがわ・みちこ)氏=パナソニック執行役員。86年(昭61)慶大理工卒、同年松下電器産業(現パナソニック)入社、音響研究所配属。14年パナソニック・アプライアンス社ホームエンターテインメント事業部テクニクス事業推進室長、15年パナソニック役員アプライアンス社常務、17年パナソニック役員兼アプライアンス社副社長。大阪府出身、54歳。>
日刊工業新聞2017年8月28日