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自分が考えたのか、AIが考えたのか区別できなくなる時代が来る?

大阪大学・石黒浩教授インタビュー
 著名人や自身のアンドロイドなどを開発し、さまざまな実験を行い世間を驚かせてきた大阪大学の石黒浩教授。そのオリジナリティあふれる着想と思考を図式化し、誰もが理解しやすいように普遍的に落とし込んだ著書『人間とロボットの法則』(日刊工業新聞社)が発売された。
 本の内容をベースに、人間とAI、ロボットの関わりと今後について伺った。

アンドロイドに人格が宿るということ


 ―2014年にはタレントのマツコ・デラックスさんをもとにした「マツコロイド」を開発し、日本テレビの「マツコとマツコ」という番組を通してたくさんの実験を行ってきました。プロデューサーの吉無田剛さんとお話した時に、「マツコロイドに人格が宿っていた」という話を聞き、気になっていました。
 「初めマツコロイドはモノとして扱われていたが、半年間番組を進めていく中でだんだんと“人格”のようなものができてきた。それはマツコさんと切り離されたものではなく、マツコさんの“双子”のような感覚。マツコロイドではものまね芸人のホリさんが声をあてていたのだが、かといってホリさんそのものでもない。マツコさんもマツコロイドを気にかけ、世話を焼くようになっていた」

 「番組最終回の終了時、マツコロイドの電源を切るシーンではスタジオがお葬式のような不思議な雰囲気になり、スタッフ全員が泣きそうになっていた。それだけ思い入れが強くなっていたんだろうね。もう一度やりたいとみんなが言っていた」

 ―マツコロイド以外にもアンドロイドに人格が宿ることはあったのでしょうか。
 「一瞬はある。『ジェミノイドF』という遠隔操作型のロボットで、アンドロイドを使った演劇を上演していたことがあった。ひとりの役者がFの操作を担当していたのだが、ある時、Fのモデルになった女性と、Fを操作していた役者が初めて対面することになった。そこで役者はなんて言ったと思う?『目の前に私がいる』。その役者は毎日Fを操作していて、Fが自分の身体のように感じてしまっていた。だからこの発言が出たんだろう。アンドロイドの“独立した人格"ではないが、結構面白い現象だった。周りのスタッフたちにとってもFはひとりの女優だったようだ」

 ―アンドロイドの人格は周囲の人間が作り出していくという側面がありそうです。人間も人格形成は周囲の環境が作っていきますが、人格形成の段階は同じようにも感じますね。
 「大して変わらないと思う。人間は周りを見てどういうふるまいをするか決めるし、嫌われないようにする。人間もアイデンティティを求めつつ、ある一定の階級(クラス)に入っていないと安心できないということがある。ただし全く同じは嫌だと思う。だからこそ、服装や持ち物などで差異を生もうとするね」

スマートフォンはすでに脳の一部?


 ―石黒先生は本の中で「身体を機械化したり形を自由に変えたりできるようになってくると、最終的には無機物化し個は情報の流れになる」というようなことを書いています。そうなってきたときに「個」の差を生むものは何になるのでしょう。
 「知能の差。どれだけオリジナルなことを考えられるかがすべて。そもそも動物と人間の違いは知能だから。創造する、想像することが動物との唯一の違い」

 ―それでも、脳さえ機械化できるようになってくると、知能の差もなくなるのでしょうか。
 「脳にチップを埋め込んだりするようになると、その問題も出てくるだろう。現に今みんなが持っているスマートフォンもすでに脳の一部になっているのではないだろうか。この前学生に『やにばしる』という言葉があるかどうか考えて、といったところ、全員がスマホを取り出してgoogleで検索しだした。脳で考えて分からなくなったことはスマホで調べる、というのが当たり前になっている現在、脳とスマホが切り離せなくなっている」

 「これが進んで行って、脳にチップが埋め込まれて、脳で考えて分からないことはチップとスマホが通信してAIが調べてくれるようになるかもしれない。わからないことはすぐにスマホで調べる、という行為は、現在すでに恥ずかしいものではなくなってきている。つまり、自分の脳ではない外部メモリを使うことにもはや抵抗がないといえる。まだ若干抵抗があるとすれば、それは、手を使ってスマホを操作し、調べる、ということ。もし手を使わずに直接外部メモリを使って調べられるようになったら、それは、調べた結果だ。というだろうか?自分が考えた結果との区別はもはやつかないはずだ。また、インターネットで調べた結果がすべてだと思い、自分で考える、ということをしなくなるだろう」

 「しかし、そうなった場合、脳とAIチップのどちらに“自分の意識"は宿るだろうか?今はもちろん脳に意識が宿る、と考えるが、例えば自分にはわからない難しい話を聞かなければならなくなったら、自分の脳は使わずチップを使うだろう。その時意識はチップにあるといえるのではないか」

 ―そうなってくると、自分の行動は誰が意識した結果なのか、というのがあいまいになっていきますね。
 「例えば目の前の人間を殴った時、AIが殴ったほうがいいと指令を出したので殴った、という言い分が出てくるかもしれない。その場合AIに責任は追及できるのだろうか?責任問題は非常に難しく、犯罪者認定も難しくなっていくだろう。“思っただけ”で罰されるようになってくるかもしれない」

 ―脳にAIチップが埋め込まれてインターネットとつながるようになったら、「自分」を見失いそうです。
 「“自分”を形作っているのは経験と記憶。思い返して、自分はこうだった、という後付けで形づけられていく。“自分探し”についても何段階かあって、“私”は誰?と考えた時、さまざまな人と関わることで他者に映し出された自分の断片を集め、自分はこれかもしれない、と気付くことになる。そして、私はこうなりたい、と思うようになる」

 「そうなるとはじめはむやみやたらに集めていた断片を理想に合うように集め、“私”を形作っていく。これはFacebookに似ているかなとも思う。Facebookを見ると、ほぼその人の人格が特定できるんだよね。そして最終的には“私”が見つかって安心する。しかし“私”を探すのをやめた途端、“私”が見えなくなる。社会も自分も変化しているので。つまり“私”は探し続けなければいけないもの、ということ。しかしAIチップが脳に埋め込まれたら、チップによって簡単に記憶を後付されるようになるかもしれない。面白い問題だ」

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昆梓紗
昆梓紗 Kon Azusa デジタルメディア局DX編集部 記者
本では、ロボットのことだけでなく人間がどう世界を見ているか、社会と接しているかが簡潔に書かれています。ちなみに石黒先生が一番新しいことを思いついたり思考がぴたっと整理されるのはお風呂上りに髪を乾かしている時。「だから髪は大事にしている」とのことでした。

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