三菱電機vs富士電機、工場IoTでどっちが“乾いた雑巾”絞った?
新築時と既存工場の活用という違いはあれど、地味なカイゼン重ねる
IoT(モノのインターネット)が製造業の省エネルギーを変え始めた。三菱電機は新棟をIoT武装し、電子部品の実装ラインのエネルギー使用効率を30%改善した。富士電機は既存工場をIoT化し、省エネと生産性向上を追求する。“乾いた雑巾”を絞ると表現される日本の製造業だが、IoTが省エネの常識を変え、隠れたエネルギー無駄を絞り出す。(編集委員・松木喬)
三菱電機の名古屋製作所(名古屋市東区)は、都市部にありながらナゴヤドーム6個分の30万平方メートルの広大な敷地を持つ。立ち並ぶ長細い工場建屋の中で、ひときわ目立つ6階建てのビルがFA機器新生産棟だ。
2013年完成の新生産棟には電子部品をプリント基板に装着する実装ラインが並ぶ。主力製品「シーケンサ」(一般名はPLC)の生産設備だ。シーケンサは小型コンピューターで、搭載した設備に稼働を指示したり、生産情報を集めたりする機能を持つ。三菱電は実装機にシーケンサを取り付けてネットワーク化し、IoT化した。
田中準二営業部次長は「現場で起きたことの因果関係が分かるようになった」と成果を語る。計画よりも実際に生産した基板が少ないと、シーケンサ経由で集めた情報を解析する。遅れの原因として考えられるのが実装不良だ。
実装機には部品を基板の所定の位置まで運ぶノズルが何本もある。シーケンサの情報をもとに、どのノズルのミスが多いのかを特定する。その情報を設計部門と共有し、部品の取り付け位置の変更でミス削減を検討する。
名古屋製作所生産システム推進部の鷲津人司・環境推進課長は「現場には生産性向上が省エネ化だと言っている。IoTは生産性向上と省エネを同時に実現する」と話す。
ライン全体の6割のエネルギーを消費するのが、加熱してハンダを溶かして部品を基板に接着するリフロー炉。シーケンサが捉えた稼働とエネルギーの情報をつき合わせると、生産機種の変更作業中にエネルギーの無駄が多いことがはっきりした。変更中、実装機が停止していてもリフロー炉は高温で待機しているためだ。
対策としてシーケンサと連携した生産管理システムが、何分後に機種変更が発生するのかを場内に知らせることにした。作業者は次の機種の部品を事前に手配し、変更作業を短縮。リフロー炉の待機時間が減り、シーケンサ生産のエネルギー使用量を30%削減した。
データの検証からリフロー炉の排熱を逃がす排気設備の無駄も見えてきた。排気ファンをシーケンサで運転を弱めたり、強めたりできるように改造。常に最大で運転していた時よりも電力使用を絞り、空調にかかる負荷も抑えた。IoTで、作り慣れたはずのシーケンサにも改善の余地を見つけ出した。
工場内の上の空間を、窓のある板が並んでゆっくりと進む。下へ降りると自動販売機の扉と分かる。地上で箱型の本体と合体すると、自販機が完成する。
富士電機の三重工場(三重県四日市市)の自販機製造ラインだ。工程と工程をつなぐ「間締め」を追求して工程間搬送を短くし、生産性を高めてきた。上を流れる扉も効率化から生まれた。
工場の操業は1944年。老朽化設備もあり、10年度から省エネ投資に踏み切った。生産状況に応じて電力消費を絞れるように設備をインバーター化し、照明は発光ダイオード(LED)に切り替えた。
さらにガス発電機2基、自社製品の燃料電池1基、太陽光パネルを導入。エネルギー自給率を65%に高め、購入する電気を減らした。発電機の運転で生まれる排熱は、工場へ送って塗装で使う。燃料電池の排熱もサーバーの空調に利用できる。
省エネ投資を続けながらも設備を増設してきた。夏場に高温となる職場にも空調機器を設置。内製化率を高めようと工場内で生産する部品を増やしており、普通ならエネルギーは増えるはず。それが省エネ投資の成果でエネルギー使用量は10年度比28%減った。
同社は「ものつくりIoT」プロジェクトを推進しており、三重工場はモデル工場となっている。約23万平方メートルの敷地内の1200カ所で電力を計測でき、9月末には92カ所への温湿度計の配備が完了する。
17年度末になると空調の23%が遠隔制御できるようになる。工場全域の温湿度を見渡し、データを根拠に節電に有効な空調を選んで温度設定を変える。電力需要が増えすぎたら空調だけで1000キロワットを減らせる。
センサー類を張り巡らせ、電気・ガスの使用、発電設備の運転、排熱利用を“見える化”し、工場エネルギー管理システム(FEMS)を構築できた。内田勝啓製造部長は「次のテーマはデータ分析」と語る。
今は大まかに発電機の運転時間を決めている。集めた情報から電力需要を予測し、発電機よりも電力会社からの電力供給に頼った方がコストを抑えられる時間を見つけ出すなど、データの利活用を検討する。
エネルギーに限らず生産性向上もIoTが担う。山本直樹工場長は「IoTでもう一段の効率化ができる。エネルギーも生産も総合的に管理でき、根拠を持って経費削減に取り組める。設備投資の順番も判断できる」と期待する。工程間搬送を短くした改善や省エネ投資で無駄がなくなった既存工場でも、IoTで切り込むと新たな削減余地が出てきそうだ。
政府は30年度に温室効果ガス排出量を13年度比26%削減する目標を掲げる。工場は省エネが限界にきたということで目標は6%減にとどめた。12年度の工場でのIoTによるエネルギー管理の普及率は4%。政府は30年度に23%を見込む。これまでの経験や勘に頼った省エネから、IoTで得たデータに基づく新次元の省エネへ移行すると6%以上の排出削減も不可能ではない。
三菱電機の名古屋製作所(名古屋市東区)は、都市部にありながらナゴヤドーム6個分の30万平方メートルの広大な敷地を持つ。立ち並ぶ長細い工場建屋の中で、ひときわ目立つ6階建てのビルがFA機器新生産棟だ。
シーケンサをネットワーク化
2013年完成の新生産棟には電子部品をプリント基板に装着する実装ラインが並ぶ。主力製品「シーケンサ」(一般名はPLC)の生産設備だ。シーケンサは小型コンピューターで、搭載した設備に稼働を指示したり、生産情報を集めたりする機能を持つ。三菱電は実装機にシーケンサを取り付けてネットワーク化し、IoT化した。
田中準二営業部次長は「現場で起きたことの因果関係が分かるようになった」と成果を語る。計画よりも実際に生産した基板が少ないと、シーケンサ経由で集めた情報を解析する。遅れの原因として考えられるのが実装不良だ。
実装機には部品を基板の所定の位置まで運ぶノズルが何本もある。シーケンサの情報をもとに、どのノズルのミスが多いのかを特定する。その情報を設計部門と共有し、部品の取り付け位置の変更でミス削減を検討する。
データ検証、炉の待ち時間減
名古屋製作所生産システム推進部の鷲津人司・環境推進課長は「現場には生産性向上が省エネ化だと言っている。IoTは生産性向上と省エネを同時に実現する」と話す。
ライン全体の6割のエネルギーを消費するのが、加熱してハンダを溶かして部品を基板に接着するリフロー炉。シーケンサが捉えた稼働とエネルギーの情報をつき合わせると、生産機種の変更作業中にエネルギーの無駄が多いことがはっきりした。変更中、実装機が停止していてもリフロー炉は高温で待機しているためだ。
対策としてシーケンサと連携した生産管理システムが、何分後に機種変更が発生するのかを場内に知らせることにした。作業者は次の機種の部品を事前に手配し、変更作業を短縮。リフロー炉の待機時間が減り、シーケンサ生産のエネルギー使用量を30%削減した。
データの検証からリフロー炉の排熱を逃がす排気設備の無駄も見えてきた。排気ファンをシーケンサで運転を弱めたり、強めたりできるように改造。常に最大で運転していた時よりも電力使用を絞り、空調にかかる負荷も抑えた。IoTで、作り慣れたはずのシーケンサにも改善の余地を見つけ出した。
工場内の上の空間を、窓のある板が並んでゆっくりと進む。下へ降りると自動販売機の扉と分かる。地上で箱型の本体と合体すると、自販機が完成する。
温湿度を把握、有効な空調に
富士電機の三重工場(三重県四日市市)の自販機製造ラインだ。工程と工程をつなぐ「間締め」を追求して工程間搬送を短くし、生産性を高めてきた。上を流れる扉も効率化から生まれた。
工場の操業は1944年。老朽化設備もあり、10年度から省エネ投資に踏み切った。生産状況に応じて電力消費を絞れるように設備をインバーター化し、照明は発光ダイオード(LED)に切り替えた。
さらにガス発電機2基、自社製品の燃料電池1基、太陽光パネルを導入。エネルギー自給率を65%に高め、購入する電気を減らした。発電機の運転で生まれる排熱は、工場へ送って塗装で使う。燃料電池の排熱もサーバーの空調に利用できる。
省エネ投資を続けながらも設備を増設してきた。夏場に高温となる職場にも空調機器を設置。内製化率を高めようと工場内で生産する部品を増やしており、普通ならエネルギーは増えるはず。それが省エネ投資の成果でエネルギー使用量は10年度比28%減った。
エネルギーも生産も総合的に管理
同社は「ものつくりIoT」プロジェクトを推進しており、三重工場はモデル工場となっている。約23万平方メートルの敷地内の1200カ所で電力を計測でき、9月末には92カ所への温湿度計の配備が完了する。
17年度末になると空調の23%が遠隔制御できるようになる。工場全域の温湿度を見渡し、データを根拠に節電に有効な空調を選んで温度設定を変える。電力需要が増えすぎたら空調だけで1000キロワットを減らせる。
センサー類を張り巡らせ、電気・ガスの使用、発電設備の運転、排熱利用を“見える化”し、工場エネルギー管理システム(FEMS)を構築できた。内田勝啓製造部長は「次のテーマはデータ分析」と語る。
今は大まかに発電機の運転時間を決めている。集めた情報から電力需要を予測し、発電機よりも電力会社からの電力供給に頼った方がコストを抑えられる時間を見つけ出すなど、データの利活用を検討する。
エネルギーに限らず生産性向上もIoTが担う。山本直樹工場長は「IoTでもう一段の効率化ができる。エネルギーも生産も総合的に管理でき、根拠を持って経費削減に取り組める。設備投資の順番も判断できる」と期待する。工程間搬送を短くした改善や省エネ投資で無駄がなくなった既存工場でも、IoTで切り込むと新たな削減余地が出てきそうだ。
政府は30年度に温室効果ガス排出量を13年度比26%削減する目標を掲げる。工場は省エネが限界にきたということで目標は6%減にとどめた。12年度の工場でのIoTによるエネルギー管理の普及率は4%。政府は30年度に23%を見込む。これまでの経験や勘に頼った省エネから、IoTで得たデータに基づく新次元の省エネへ移行すると6%以上の排出削減も不可能ではない。
日刊工業新聞2017年8月8日