変わるか自動車業界、女性管理職育成にアクセル

男性管理職「女性部下を飲みに誘ってもいいの?」

「レディー・ファーストプロジェクト」のモデル店を視察するカルロス・ゴーン日産社長

 自動車業界で「女性管理職を増やす」ことがにわかに注目されている。日産自動車は管理職の女性比率を2017年に10%(14年4月は7・1%)にする意欲的な目標を掲げる。ただ、自動車業界全体は他業種と比べ男性中心の社会。女性の活躍は増えているが、管理職目標は設定していない企業も多い。近い将来、業種や国を超えた高度人材の獲得競争が予想される中、日本の男性社会に最も身近な女性から優秀な人材を獲得することがより重要になる。 【ルノーの衝撃】  「両社の役員が顔を合わせた時、女性もいる仏ルノーに対し、日産自動車は年配の男性しかいなかった」。99年のルノー・日産アライアンス締結時にグローバル企業との違いを思い知ったと日産自動車ダイバーシティディベロップメントオフィスの寺上佳子主担は振り返る。これが他社に先駆けてダイバーシティー(多様性)に取り組む引き金となった。  日産は8割を海外市場で稼ぐ。独ダイムラーや東風汽車(中国)、三菱自動車との共同開発や、自動運転などの先進技術では車以外の業種との協力も増えている。「多様なニーズに応え、多様な意見で組織を強くするためにダイバーシティーは必然」(寺上主担)だ。  ダイバーシティーには性別のほかに国際性や世代、文化があるが、日本では性別を優先する。日産の取り組みの特徴は社内の全プロセスで女性の活躍を進めていること。商品企画では女性の視点で赤ちゃんを抱いたまま乗り降りしやすいドアや、小型車に全周囲俯瞰(ふかん)モニターを設置。販売では、女性顧客の獲得に向けて「レディーファースト店」の認定制度を開始した。将来は700店に増やす考えで、モデル店では展示車両を減らし、キッズスペースの配置を変更して、くつろげる空間にした。生産現場でも女性の視点は重要で、「治具や工具の楽な持ち方など、女性が働きやすい作業環境は老若男女が働きやすい」(同)と見る。  さらに管理職に引き上げるため、「キャリア開発会議」に力を入れる。課長手前の女性社員ら年70人を対象に、直属の上司や部長、人事担当に加え、寺上主担ら専門のキャリアアドバイザーが集まり、育成計画を話し合う特別な場だ。  【100年前から】  外資系のボッシュ(東京都渋谷区)にとって、競争力向上にダイバーシティーが欠かせないのはもはや常識。ダイバーシティーと両輪のワークライフバランスの基礎に取り組み始めたのは1906年。8時間労働制を施行した。「労働者の生産効率を保持するのに最適な方法」という創業者ロバート・ボッシュの言葉も残る。  この思いを引き継ぎ、フレックスタイム制度や育児休業の拡充、在宅勤務など働きやすい環境づくりの歴史は長い。このため離職率は年1%前後と低く、女性と男性の勤続年数は同程度、直近の新入社員の女性比率は4割に上る。さらに「女性の活用をもう一段、高めたい。有能な女性が管理職を目指せる気になる環境を意識改革を含めて作る」(佐藤健人事部門長)と意気込む。  さまざまな施策を通じて見えない壁があることも分かってきた。「平等のつもりでも、気づかずに『女性だから』と判断することもある」(金咲もと子人事部門人材開発グループセクション・マネージャー)。そこで中間管理職を対象にワークショップスタイルの研修「ジェンダー・トーク」を実施。研修では男性管理職から「女性部下を飲みに誘ってもいいの?」などの質問もあがるという。「男性上司はささいな事を気にしている。もっといい仕事ができるのに、理解しあえないともったいない」(同)。  14年1月からは社員がプロジェクトチームをつくり、ダイバーシティー推進の課題についてアイデア出しや会社への提言を行う活動「ダイバーシティ@ボッシュジャパン」が始まった。テーマはタイムマネジメント向上と在宅勤務研究会、ゆるキャラ「いくじら(育児クジラ)」と「かいジイ(介護エキスパートの貝じいさん)」を使った両立支援サポートの3チーム。9月に1回目の中間報告を行い、会社の施策に反映していく。  【広がる輪】  大半の自動車関連企業では女性管理職の育成はこれからが本番だ。トヨタ自動車はこのほど女性管理職数の目標を初めて設定した。「92年に本格採用を開始した女性事技職の社員がちょうど管理職を目指す時期」(広報部)というタイミングとも合っていた。 同社は管理職を目標にした特別な育成はなかったが、03年から愛知県の本社地区を中心に社内託児所を設置するなど女性が働きやすい環境づくりに力を注いできた。在宅勤務時に社内と同じイントラネット環境が使えるよう工夫している。今後は新卒採用時の女性比率向上や育児休職からの早期復職支援策の強化などを通じて、女性管理職を育成する考えだ。  三菱自動車は将来、女性管理職を現行比3倍の100人規模(現在の管理職の女性比率は2%)に引き上げる。「女性の意見を聞く場があると、社内風土は変わりやすい。女性活用で先頭集団を走りたい」(相川哲郎社長)という。富士重工業も9月までに目標を策定する予定だ。国内の新車開発でしのぎを削る各社だが、海外企業や他業界と比べると女性の働く場としては共通した弱みを持つ。将来の業種などを超えた人材獲得競争も視野に入れ、先進事例を各社で共有して取り組むことも必要になりそうだ。

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