「ESG」投資元年。目の前の勝負に勝つよりもずっと存続する企業が選ばれる!?

「環境・社会・統治」を意識して企業が情報発信に動く

 ESG(環境・社会・統治)で成長する企業を選ぶ投資が存在感を高めている。欧米ではESG投資が活発だが、2015年に世界最大級の機関投資家である年金積立金管理運用独立法人(GPIF)がESG重視を表明し、日本でも注目され始めた。成長を支援してほしい企業が情報発信に力を入れており、16年は「ESG元年」の様相だ。  「ESGを気にしている」。7月20日、世界自然保護基金と協定を結んだ記者会見でトヨタ自動車の根本恵司環境部長はこう発言した。同月13日に環境活動の説明会を開いた積水化学工業の阿部弘環境経営グループ長も「ESGを意識して情報発信をしている」と語った。  ESGとは環境、社会、統治の英語の頭文字で、環境活動や社会貢献、コーポレートガバナンス(企業統治)などの情報。業績や経営計画の「財務情報」と区別し、「非財務情報」と呼ばれる。本業を通した社会課題の解決など、売上高や市場シェアだけでは評価しきれない企業価値を知る情報源だ。  欧米ではESGがしっかりしている企業を将来の環境規制に対応でき、不正を犯す恐れが少なく、持続的に成長する力を備えていると評価する。好業績の企業が不祥事を起こして株価が急落する事態が起きており、安定配当を見込めるESG投資の比重が高まっている。  14年の世界のESG投資残高は21兆ドル(約2100兆円)。その9割が欧米で、投資家のほとんどが年金基金だ。日興リサーチセンター(東京都中央区)社会システム研究所の寺山恵副所長は「社会を良くしたい人たちが必ずいて、投資を通して企業が倫理的な行動をするように制御しようとしている」と背景を説明する。  15年9月、140兆円の運用資産を抱えるGPIFが国連責任投資原則(PRI)に署名すると、日本でも急速にESGが意識されるようになった。PRIは投資先の決定にESGを反映させる指針。安倍晋三首相が国連で表明したため「GPIFのESG重視」は“国際公約”となった。  寺山副所長は「ESGをどう評価するかは投資家次第」と話す。欧米でE(環境)は気候変動問題への取り組み姿勢を評価する。二酸化炭素(CO2)排出量が多い企業は将来、排出規制が成長の足かせになるからだ。S(社会)は人権が項目の一つ。児童労働や強制労働が発覚して不買運動に発展するようなリスクを見極める。そしてG(統治)は経営者のマネジメント力だ。  企業はESGの開示で長期資金を獲得できれば、短期の業績に振り回されずに済む。黒字化まで長い時間を要する研究にも没頭でき、革新的な技術を開発できる。  国もESG投資の環境整備を進める。環境省はインターネットを使って企業が情報を公開し、機関投資家が閲覧できる「環境情報開示基盤」の構築に取り組む。実証3年目の15年度は企業206社、金融機関95者が参加した。  基盤には共通質問があり、企業が回答した情報を公開する。投資家に必要な情報に絞ると同時に、比較しやすくするためだ。  事業を支援するNTTデータ経営研究所(東京都千代田区)の大塚俊和シニアスペシャリストは「対話のプラットフォームを目指している」と話す。15年度から投資家が企業に感想や質問を送れる機能を追加したところ、月900件のコメントが発信された。  16年度からは企業側からも投資家にコメントを送れる双方向型に更新した。どのような情報が有益なのか手探りであり「企業も投資家もお互いに対話を通してトレーニングできる」(大塚シニアスペシャリスト)と期待する。  環境省は20年度からの本格運用を計画している。政府はESG投資を温室効果ガス削減目標達成の推進役として期待しており、同省環境経済課の藤原千悦子専門調査員は「適切な開示と評価に貢献したい」と意気込む。 <次のページ、企業の取り組み事例紹介>  NECは7月6日、ESGミーティングを開いた。初開催でもあり、今回は環境に絞って機関投資家15人に説明した。エネルギー効率の改善や異常気象による被害の回避に情報通信技術(ICT)を活用し、気候変動問題の解決と事業成長を両立させる戦略を解説。提供するICTによって30年度に5000万トンのCO2排出削減に貢献する長期目標を紹介した。  出席者からは目標の根拠や事業計画との連動性、研究開発についての質問が多かったという。  開催はGPIFのPRI署名がきっかけだった。同社環境推進部の堀ノ内力部長は「情報発信をしないとリスクのある会社と思われる」と危機感を抱いた。ESG投資では情報開示がないと一方的に「何もしていない」とレッテルをはられる。逆に開示があれば将来のリスクを認識して経営していると評価される。  これまでも調査機関から質問を受けていた。回答は採点や格付けがされて投資の参考となるが、堀ノ内部長は「どのように参考にされているかわからなかった。ミーティングで投資家と直接、対話できた」と成果を話す。 (NECが初めて開いたESGミーティング)  三菱マテリアルは15年7月、投資家向けにESGミーティングを開いた。企業の社会的責任(CSR)活動への社外意見を聞く有識者との対話の場で「リサイクル事業の訴求が足りない」と指摘されたことがきっかけだった。  出席者には家電リサイクル事業を通した資源循環、セメント事業による産業廃棄物の資源化など、本業と環境課題解決の関連性を紹介した。  業績の説明はしなかったが、質問はすべてが収益に関連していた。アンケートでは「ビジネスモデルがわかった」「リサイクル事業を知る機会になった」などの感想が寄せられた。  同社CSR室の鈴木浩之副調査役は「中長期視点の評価は当社のメリットになる」と期待する。長期資金を呼び込めると、腰を据えてリサイクル技術の開発に打ち込める。  一方で、成長する姿を伝えたくても、経営計画から外れた説明はしづらい面がある。岩田卓CSR室長は「会社としてESGへの考え方を高めていく必要がある」と話す。 (三菱マテリアルの貴金属リサイクル拠点がある直島製錬所=香川県直島町) (文=松木喬)

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