5Gで飛躍へ…NEC、先端の音響技術でまちのエンタメ化に挑む

連載・音の時代がやってくる#07

SSMRサービスはヒアラブルデバイスを活用した音響ARやスマートフォンを通したAR映像で街をエンタメ化する

何もない左前方からサックスの音色が聞こえる。首の向きを変えても音が聞こえてくる場所は変わらない。その音源から遠ざかると音量が小さくなった―。音源を仮想的に固定する「音響定位技術」と耳に装着する「ヒアラブルデバイス」を用いて実現した「音響ARサウンド」だ。これを活用すると、現実にある周囲のモノが実際に語りかけてくるような音響効果を演出できる。 開発したNECはこうした技術とAR(拡張現実)映像を組み合わせた「空間音響MR(SSMR)」のビジネスを推進する体制を整えた。コンテンツ制作やプロモーションなどの知見を持つ5社と立ち上げた「SSMRビジネス推進コンソーシアム」を通して歴史・文化遺産や観光施設などをエンターテインメント化し、集客力の向上を支援する。今月商用サービスが始まる高速・大容量通信が可能な次世代通信「5G」を活用すると、よりぜいたくな演出ができるため、5Gのユースケースとしても訴求していく。 第一弾として香川県善通寺市にある弘法大師空海の誕生の地「善通寺」を案内するコンテンツの実証が2月に始まった(下にPR動画)。犬や子豚などのキャラクターがAR映像で登場したり、境内にある空海像が語りかけたりする演出を施した。SSMRは地域資源に手をつけずにそのまま生かせる強みを生かし、全国の自治体が頭を悩ませる地方創生の切り札になるか―。(取材・葭本隆太) 音響定位技術はまず、仮想の音源の位置を緯度と経度と高さで設定する。その上で利用者が持つスマートフォンのGPS(全地球測位システム)やヒアラブル端末に搭載されたセンサーの情報を基に仮想の音源に対する利用者の距離や向きを計測し、固定された音源を表現する。 SSMRはこれに仮想的な境界線で作ったエリア「ジオフェンス」を設定し、利用者がそのエリアに入ると音声コンテンツやAR映像が起動する仕組みを組み合わせることで、現実の風景と仮想空間を融合させた体験を提供する。 NECデジタルサービスソリューション事業部の染谷一成シニアマネージャーは「(SSMRはそれを展開する場所に)設備を置く必要がない。世界中どこでも実現できる強みがある。他にはできないと自負している」と力を込める。 こうした新しい技術をビジネスでどう展開するか。NECは技術を自由に使えるプラットフォームの提供だけでなく、具体的な使い方を示さなければ利用は進まないと考え、コンソーシアムを構想した。従前から付き合いがあり、プロモーション事業を手がけるル・スポール(東京都渋谷区)の協力を得てSSMRの展開に必要なコンテンツ制作などに強みを持つ企業をコンソーシアムの幹事社として招いた。 SSMRビジネス推進コンソーシアムの丸山俊一副会長(NEC・ネットワークサービスビジネスユニットシニアエキスパート)は「我々は(SSMRの)プラットフォームを(企業に)提供したいが、難しい技術のため一般の利用者(に届けるまで)を考えないと使ってもらえないと思い、(それができる)コンソーシアムを立ち上げた。その上で一般の利用者にSSMRを訴求する手段として『エンタメ』をキーワードに位置づけた」と説明する。 具体的なサービスのイメージとしては文化遺産や史跡、動物園の動物などを擬人化し、話しかける演出によってエンターテイメントと情報提供を同時に実現したり、アニメやドラマなどのモデルになった地域で、来訪者がその場にいるような演出をしたりして集客を促進する仕組みを構想した。 同コンソーシアムではSSMRを活用して地域を盛り上げたいと考える地方自治体などに対してNECなどの幹事社がエリア開拓やコンテンツ調達・制作、サービス運営などの領域を需要に応じて支援する。例えば、観光施設やキャラクターを保有する自治体の場合、NECがSSMRプラットフォームを提供するほか、サービス運営に強みを持つ企業などを紹介し、プロジェクトの立ち上げを後押しする。参加する自治体や企業がそれぞれ資産や強みを持ち寄り、事業によるリスクを分散する。また、サービスは一般の利用者から利用料を回収するスキームになっており、その収益は事業参加者で分配する。 丸山副会長は「各領域で強みを持つ人同士をマッチングするので(そもそもの)事業リスクを抑制できる。また、リスクが分散するためプロジェクトが立ち上げやすい」と強調する。 2月に実証をスタートした善通寺では3月末にも商用サービスを始める見通し。ほかにも複数地域でプロジェクトが立ち上がりつつある。2020年度中に47都道府県それぞれで1件以上のサービスが提供される体制を目指す。 SSMRは今後の機能拡張も予定する。現実世界の周囲のモノと音声による質疑応答が体感できる「音声チャットボット」などの機能を20年度に実装する。 また、「5G」を活用することで、よりぜいたくな音響効果が実現できるという。例えば、現在は仮想的に固定した音源のうち、同時に出力できる音源は一つだが、5Gによって複数の音源から同時に発信できるようになる。NECの染谷シニアマネージャーは「5Gのユースケースとして(SSMRは)期待されている」と説明する。 5Gの追い風を受けながら、地方創生の切り札として市民権を得られるか。また、コンソーシアムを通したビジネスモデルが機能するか、NECの挑戦が始まった。            

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