あの兵庫県尼崎市が「住みよい街」に…イメージ向上の背景とは

尼崎市長・稲村和美氏

兵庫県尼崎市は「住みよい街」として定評が高まりつつある。2018年7月に、住宅ローン専門金融機関のアルヒ(東京都港区)の調査で「本当に住みやすい街」にJR尼崎駅周辺が関西で1位となって約1年半。市による市民の意識調査でも「イメージが良くなった」と回答する割合が増えている。「産業都市・尼崎」を支える中小製造業も意匠の優れた自社製品の開発を強みに、市のイメージアップとともに情報発信力を高めている。(神戸・福原潤) 尼崎市が13年度から実施してきた市民意識調査で、市のイメージが「良くなった」「どちらかといえば良くなった」と回答した割合が18年度に、52・6%に上った。5割を超えたのは調査開始以来初めて。背景の一つには同市がマイナスイメージの根絶に向け取り組んできた施策がある。 尼崎市の街頭犯罪認知件数の約半分は自転車盗難が占める。平地の多い市域は自転車利用が多く、一方で盗難もまん延。そこで17年に採用したのが、盗難防止用のアラーム付きロックを装備した「ダミー自転車」。車体を動かすと警報音が鳴る仕組みの自転車を主要な駅前駐輪場に紛れ込ませた。地方自治体による取り組みとしては全国初だったという。 この取り組みが功を奏したこともあり、08年に3704件を数えた同認知件数は18年に1728件と、10年で半減した。19年10月には「22年度までに1000件未満」とする新たな目標を設定。住みやすさや治安をさらに改善する方針だ。 こうした追い風も受け、高いモノづくりの技術力に加えて意匠にもこだわる中小製造業が目立ち始めている。デライトラボ(尼崎市)は「一品一様」の金属製ステーショナリー(文房具)の製造販売を手がける。同社の金指博文代表は主力のペン立てを「航空機向けの油圧制御部品製造の技術が生み出した一品。ゆっくりとペンがスタンドへと収まる様はインバウンド(訪日外国人)にも好評だ」と胸を張る。 金指代表は航空機部品などを手がけるゼロ精工(尼崎市)の創業者の1人。ステーショナリー事業のデザインを担っていたが、13年に独立しデライトラボを創業した。ボールペンをペン立てに差し込むと、まるでペンが安堵(あんど)するかのように中へ沈み込んでいく。 書き仕事などを終え「ほっと」一息ついた時をイメージし、製品を「ZERO 溜息(ためいき)3秒」と名付けた。18年には神戸市産業振興センター(神戸市中央区)による地場産ブランド「神戸セレクション2018」にも認定された。意匠性や技術力の高さなどが評価された。 海外売上高比率も約30%に上る。「ドイツや香港などから引き合いが増えている。日本で売っている『大量生産品』ではない点が評価されている」(金指代表)とみる。 「ゆくゆくは尼崎市内に、ショールーム機能や顧客の声を直接聞くことを目的に、ガラス張りの工房を開設したい」と、店舗を設ける構想もあたためる。 造船所などの大型扉・特殊扉を製造販売するのは三和鋼業(尼崎市)。板垣眞輝恵社長は建築デザインの多様化や一層高まる防災ニーズに対し、意匠でも競争力を高めてきた。 2枚に折れ曲がり、吊り上げ式で開閉できる折り戸「フォリオアップドア」で、14年に意匠権と商標を取得した。15年に開館した大分県立美術館(大分市)では建物壁面に採用された。開口時にはアトリウムと外部を一体化した空間を創出し、全面を出入り口として活用できる。板垣社長は「素早く開閉ができるので、劇場や競技場など一度に多くの人が出入りする公共空間に適する」と説明する。 20年1月18日開館のアーティゾン美術館(東京都中央区)にも、新たに開発した電動回転扉を納めた。「収益力を高めるため開発段階からの参加を増やし、『提案型企業』への変革を加速する」と前を見据える。 インタビュー/尼崎市長・稲村和美氏 産業の変化に素早く対応 尼崎市は「住みやすさ」の定評を高める一方で、近隣自治体との企業立地競争も増している。稲村和美市長に産業振興の方針と課題などを聞いた。 ―尼崎市の特色は。 「産業構造の遷移に関する対応が早い。『工場等制限法』の制定により大規模工場の新設が制限されながらも発展を遂げてきた。交通至便な環境などが評価され、18年は9年ぶりに人口が増加した。3年連続で転入人口が転出人口を上回る社会増も達成した。若年層の流入が人口増加をけん引している」 ―住みやすい街と評価される理由は。 「森永製菓が尼崎市内の工場を13年に閉鎖した。工場跡地は分譲マンションや商業施設などからなる関西最大級の再開発区域に変貌した。国から認定を受けた『環境モデル都市・尼崎』のロールモデル(模範)になる再整備を、民間事業者に促してきた」 ―兵庫県西宮市や大阪府豊中市など隣接する自治体も、市域の企業のつなぎ留めや立地促進に向けた施策を拡充しています。 「10年には工場敷地内の緑地面積の確保比率の要件を一部緩和した。沿道の緑化や緑地の高度利用での対応を可能とするなど、他市に先んじて企業誘致を促す策を講じてきた。国連の持続可能な開発目標(SDGs)を意識した事業展開や環境面での配慮を企業に促しながらも、産業都市としてのこれまでの歩みを踏襲し、企業の操業環境を維持するスタンスは変わらない」

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