森トラスト社長・伊達美和子氏が社員に求める3つのチカラとは

祖父の森泰吉郎が立ち上げた不動産業を継承した森家には「会社は社会の公器であり、事業を通していかに社会に貢献できるかを考え続けなければいけない」という信念が息づいている。これを継承するには時代の変化に合わせて常に会社を進化させることが欠かせず、未来を見据えた理想や理念を描き、それを実行するための戦略と戦術が求められる。 森トラストの社長に就いた時も、単に確立された事業を引き継げばよいとは考えなかった。祖父はオフィスビルを供給することで戦後復興を支え、父で会長の森章も高度経済成長の中でサラリーマンの余暇を充実させたいとリゾート施設を建設した。理想を戦略的に捉え、戦術として落とし込んだタネを芽吹かせ育むことがファミリーの使命だ。 元々、家業やマネジメントへの関心は高かった。幼いころから父の仕事を身近に見て育ったこともあり、大人たちを介して伝わる不動産ビジネスの躍動感に魅了されてきたからだ。街に建物を築く面白さはもちろん、その裏には難解な書類を前に議論を重ねる父や大人たちの姿があった。マネジメントの視点を養うこの上ない環境だったと言える。 家業に入ると決めた大学時代には、父がどのような目的を持ち、プロジェクトに取り組んだのか、そのためにどう材料を集め、どんな結果を生んだのかという話を興味深く聞いた。その父が強調したのが「常に自分をマネジメントし、何をすべきか考えなさい」ということだ。自分で判断する“器”を増やさなければと感じた。 実は、父にはかねて「何か全く新しいことをやりなさい」とも言われている。既存事業を維持・成長させるのは当然として、それとは別に自分で何か新しいものをクリエイトしないといけない。それをやって初めて一人前だと。実際に、父は社長時代に会員制リゾートホテルという2本目の柱を作った。だから、自分はまだ半人前という意識で今の仕事に臨んでいる。 そういう意味では、次の柱を作る使命がある。ただ、今は既存のものを磨き直すことで新たな価値を創出していく時代でもある。例えば、開発を進めているラグジュアリーホテルは、日本の観光先進国化を視野に父の事業を発展させたものだ。一つの成果は出ていると思うが、私は祖父が起業した年齢に達していない。まだ何かできるはずだと、励みにもなっている。 現在、不動産は周囲の環境に合わせて大きく進化する転換期にある。当社の目的や目標もどんどん変化しているが、一方的に決めては社員も戸惑う。そこで強く打ち出したのが、対話の姿勢だ。経営陣の考えを社員に伝えると同時に、彼らの意見や考えも伝えてもらう機会を増やす。求めたのは「考える力」「企画する力」「実行する力」の醸成だ。日本人は自由な討論が不得手だが、表現する場があれば考えも出てくる。 ここ2、3年で社内の雰囲気は大きく変わったと思うが、時代の流れは速く、常に変化が求められている。社長就任に合わせて定めた2027年度まで12カ年の長期経営計画の第1期は19年度で終わり、業績は比較的好調に推移している。第2期に当たる20年度からの4年間は、もう少し発展的な方向にシフトしたいと思っている。 企業として持続・成長するために変化を求め、さらにその責任を全てトップが負うことができるというのはファミリー企業の強みかもしれない。本来は実現性など誰も保証できない大きな方針だったとしても、森家の信念との整合性を信じて、変化や新しいことへのチャレンジを恐れず、一歩を踏み出せることは優位だろう。 ファミリー企業でなくても、論理立てて方針を整理し、実行の方法も整えながら合意形成している時の企業は大きく変化・成長している。トップが全て正しいわけではないと思うが、リーダーシップを持ったトップの存在は企業を変化させるチャンスになるだろう。

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