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夢がなきゃ起業しちゃダメなの?若手ビジネスリーダーが語り合う、人と仕事の出会い方

【前編】トイトマ・山中×54・山口
夢がなきゃ起業しちゃダメなの?若手ビジネスリーダーが語り合う、人と仕事の出会い方

山中氏(左)と山口氏

 「将来の夢は何ですか?」「どんな仕事をしたいですか」「なりたい自分はどんな人ですか?」・・・。これまでの人生の中で、作文の課題や就職活動などで、こんな問いかけを何度もされたことがきっと誰にでもあるはず。でも、正直、答えるのがつらくなかったですか?何となく、答えたり書いたりしたけど、本当にこんなこと思っていたっけな?とどこか納得いかなかったりしたことありますよね。

 ところが、「夢もビジョンもない」どころか、「自分が好きなことを選んだわけではなく、こんな生活から抜け出さないと!」と追い詰められての果てに起業した人もいます。トイトマ(東京都中央区)の代表取締役会長の山中哲男氏(左)です。今や大手企業や官公庁から大型プロジェクトを任される注目の若手起業家なのですが、「夢を持たないことに苦しんできた」そうです。日米を股にかけた一見行き当たりばったりのような遍歴の末、たどりついた成功の秘けつは「”人”を基準に仕事を選び、または仕事を生み出し、目の前の仕事に小さなマイルストーンをおきながら一生懸命1つひとつやりきること」。当たり前のような結論ですが、このシンプルな考えに至るまでにはさまざまな試行錯誤がありました。山中さんと長年交流がある54(ごうよん、東京都品川区)の山口豪志社長(右)を聞き手に、新しい働き方をテーマに話をうかがいました。(取材・執筆 狐塚真子)

山中哲男(やまなか・てつお)さん
 トイトマ 会長/ヒューマンライフコード 社外取締役
 高校卒業後大手電機メーカーに就職する。約1年間後、自ら多くの実務を経験できることから飲食店を開業することを決意し起業。07年、米国ハワイ州にてコンサルティング会社を設立しCEOに就任。約5年後、全ての株式を売却。08年、株式会社インプレス(現:トイトマ)を設立し、社長に就任。15ワールド・アライアンス・フォーラム事務局長。国際U3A(AIUTA)及びアジア・太平洋地区合同会議2016実行委員。

山口豪志(やまぐち・ごうし)さん
 54 社長
 2006年クックパッド入社。広告マーケティング事業で09年同社IPOにトップセールスにて貢献。12年3人目の社員としてランサーズに参画、ビジネス開発部長、社長室広報を歴任。15年に54を創業。17年にプロトスターに参画。

<夢がないことに苦しめられてきた>

 山口 夢や大きな目標を持ったりするなど、生活や働く中でこれまで良しとされてきた指針が昨今では大きなプレッシャーになって、逆に苦しむ人が増えています。山中さんもこのことに苦しんできたそうですね。

山口氏

 山中 小さい時から「ああなりたい」、「これがやりたい」というパッションがなかったんです。大人になってからも「将来どこを目指しますか?」、「将来どうなりたいですか?」と聞かれることがありますが、やはり答えられません。夢を持たないといけないということに常に苦しんできたし、そのたびに誰かの真似事を言って、なんとかごまかしてきました。

 特にそれに苦しめられたのは就職活動のときです。僕が生まれ育った兵庫県加古川市は”工場の街”ということもあり、特に何も考えず、高校卒業後は工場に就職しました。けれどもルーティンワークは自分に合わなかった。1年も経たないうちに辞めてしまいました。そこから今度は転職活動が始まりますが、転職活動でもやはり「なぜうちで働きたいの?」と聞かれます。自分の言葉では答えられないので、その会社のホームページを参考にそれっぽい理由を作って答えていたのですが、会社の人にも見抜かれてしまい、転職活動は上手くいきませんでした。

 それからは日雇いバイトでなんとか食いつなぐ日々を送りました。とりあえず生きるために働くわけですが、全く楽しくありません。「こんな生活から何とか抜け出さないと」と思い詰めて、20歳のときに思い切って起業しました。

 5年間は飲食店の経営をしていましたが、この際も「人軸」を大切にしながら取り組んことが成果を出すことに貢献したと思います。最初に飲食店経営が素人な僕が行ったのはこれから僕のお店で働くメンバーに、今務めているお店の店長を紹介してもらうことでした。店長はどんな人かを聞いていると魅力的な人が多く、是非紹介して欲しいと伝え、会いました。その理由としては店長であれば食材の仕入れ先から、ゴミ捨て業者、メニューづくりまで全部を知っていると思ったことと、自分にとって相性の良い人(採用するメンバー)が自信をもって紹介してくれる人はきっと仲良くなれると思ったからです。彼らは素直にわからないことを告げると優しく教えてくれました。そのおかげで、居抜きからスタートしたお店で、足りないものが多々ある状態に対して、改善点を指摘して頂いたり、仕入れ先からシフト表まで事細かくアドバイスをもらいました。それどころか、オープンしてからずっと通ってくれ、いつしか心強い応援団になってくれていました。

 他にも、食事やお酒のメニューを来店されたお客様とお話をしながら、取り入れて欲しいものを聞きまわっていました。反応が悪く冷ややかな対応をする方もいましたが、多くの人は面白がって様々な意見をくれました。僕はその意見を積極的に取り入れ、意気投合したお客様の新メニューの意見を即採用して、「いついつまでのメニューに入れるのでまた来てください」と言いました。すると9割以上の方は再度来店してくれました。このように、相性を見極めて、合うと感じた人には境界線をこえてざっくばらんに話をしてみる。すると、高確率で何か次に繋がっていく。その何かを目的化しないことが大事だと考えています。

 その後の5年間はハワイで日本企業の海外進出のコンサルティングを行っていました。コンサルティング業界未経験の僕に信用や説得力はなく、飲食時代に貯めたお金をあっという間に使いきってしまいました。けれども、約1年が経過した頃には、ハワイで出店したい人のニーズや不安な点をかなり理解でき、仕事を得ることができるようになりました。結果として会社はM&Aで売却することができ、それなりの成功を収めることはできたのですが、仕事に対して情熱はやはり持てなかったし、「自分は何者であるか」という疑問も生まれました。成功すれば、やりたいことが見えてくるかと思っていましたが、何も変わりません。

 夢もビジョンもない、かといって自分が好きなことを選択しているわけでもない。では一体自分の意思決定の基準は何なのかと、これまで自分が関わった仕事を一度振り返ってみたんです。

<仕事を選ぶ基準は「人」、仕事が生まれる機会も人との出会い>

 山口 山中さんがこれまでに取り組まれてきた仕事のジャンルはバラバラですよね。幼稚園の運営から、大手アパレルメーカー、不動産に国の仕事まで。

 山中 最近では大手電機メーカーとの合弁会社の社長を任されたりしています。長らくコンサルティングやプロデュース業に専念していたのですが、最近では再生医療関連のベンチャーで、昨年末の東京都が後援する「東京ベンチャー企業選手権大会 2019」において最優秀賞を受賞したヒューマンライフコード(東京都千代田区)の立ち上げフェーズから関わり、現在は同社の社外取締役を引き受けています。

 色々な仕事をやるたびに、周囲から 「何をしている人なのか分からない」と言われるようになりました(笑)。でも仕事内容としてはオーナーさんの想いを形にして、メーンターゲットの人に届けていくための「事業戦略」を練ることであったり、「0→1」の「事業開発」の2パターンなんです。一言でいうと、常に事業創造をしています。これらの仕事は、高卒でメンターや起業家仲間もおらず、自分自身と向き合い、起こった現象に対して向き合い、常に選択肢を見出しながら、チャレンジを続けてきた僕だからこそ役立てる仕事だと思います。

 山口 一つの事象に対して、色んな角度で考えることで、沢山の選択肢を出せるようになったという事ですね。

 山中 そうですね。だから、オーナーさんが「これをやりたい」というビジョンを持っていれば、自分はそれを客観的に見て「こんなことできますよね」と精度の高い選択肢を出すことができます。例えば、医療の仕事を受けたとしても、自分が医療の専門家である必要はなくて、並走するパートナーとして選択肢の入り口を見つけてあげられたら、それはプロジェクトとして十分動いていくんです。そこで、ジャンルを問わず様々な仕事を引き受けていくようになりました。

 

ただ、オーナーさんのビジョンに共感できることはあっても、自分自身がワクワクしているという気持ちが続かない場合もあって…。 結局のところ、自分が仕事を引き受けている基準は「人」だったということに気づきました。

 例えば、自分のスキルが10段階のうち、5だとします。そのときにモチベーションが1だとしたら、パフォーマンスはきっと1しか出ません。しかし、その反対で、「この人のために頑張ろう」という思いがあれば、パフォーマンスは5以上になると思うんです。だからこそ、ビジョンの共感よりも、人への共感や相性の良い場合のほうがコミットメントできると思っています。

 アメリカで仕事をしていた際は「この人嫌だな」と思いつつ、仕事を進めたこともありましたが、ストレスがかかり、さらにそのせいで自分のパフォーマンスも下がってしまいました。その経験もあって、家庭の事情で日本に帰ってきてからは、「自分と相性の良い人としか仕事をしない」と決めました。

 「人との相性」については、企業の人材採用でも活かせると思います。多くの企業はスキル採用だと思いますが、例えば営業を得意としている人を採用したとしても、「このフェーズで営業は必要ないな」という場面が来たら、その人の居場所はなくなってしまいます。でも「この人と仕事をやりたい」と思える人なら、どんな仕事でも任せてしまうと思います。これから大手企業の事業が分散化していって、中小企業化が進んでいくと言われていますが、チームが小さくなればなるほど、人との相性は大事になってくるはずです。

山中氏

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