緊急声明が出たヘリウム危機、産学連携で乗り越えろ

東大物性研のヘリウム貯蔵用タンク。低温研究で大量に使う

ヘリウム不足を、産学官連携で乗り越えていくべきだ。 日本物理学会や国立大学など計47機関は、需給が逼迫(ひっぱく)するヘリウム危機への対応を呼びかける緊急声明を出した。 ヘリウムは沸点がマイナス269度Cと全元素の中で最も低い。材料を液体ヘリウムに浸すと、蒸発熱などで極低温に冷やされる。超電導や量子効果を生み出す低温工学で、加速器ビームラインや核磁気共鳴断層撮影装置(MRI)などに広く使われている。産業界でも、半導体や光ファイバーの製造や溶接、リークテストなど広範囲で活用されている。 全量を輸入に頼るヘリウムの入手難と価格高騰は、以前もあったが、今回は一時的なものではなく、長期的構造的なものだ。声明では、ヘリウム不足にはリサイクルが必要で、それに向けた予算措置や規制緩和を求めている。 実は大規模な研究機関にはヘリウムの再生設備が置かれ、回収率は9割などとなっている。学術コミュニティーに貢献する使命を持つ「大学共同利用・共同研究拠点」の一つ、東京大学物性研究所は、そのリーダー格で、10月から自らの設備で、学外のヘリウムガスを受け入れて再液化する事業を始動した。 まず中小規模の研究機関や企業で、液体からガスになったヘリウムを回収バッグに集め、圧縮して高圧ガスボンベに保管しておいてもらう。これを産業ガスメーカーが物性研に運ぶ。物性研の液化設備でガスを液体にし、それをガスメーカーがユーザーに届ける仕組みだ。 ところがここで、高圧ガス製造保管の免許を持つ責任者が必要なことが、特にユーザー企業でハードルになるという。物性研は「ユーザーが免許なしで済むよう、小型のガス圧縮機を開発し、トラックに積んで搬送できないか」「ヘリウムは安定な物性であり、高圧ガス保安法の適用除外に変えられないか」などを議論している。 この取り組みは、学術研究機関が産業界や政府に働きかけるまれな事例だ。解決に向けて関係者の認識を高めてほしい。 冷やすと電気抵抗がゼロになる超電導材料の低温研究から、医療機器や半導体製造まで、幅広く使われているヘリウムの調達が難しくなっている。産業向けが優先され、後回しになりがちな研究機関は悲鳴を上げる。その中で大規模ユーザーの東京大学物性研究所は、使用分の9割以上を回収・再生する設備を持つ。ヘリウムを使用後に大気放出している企業に対し、研究所がリサイクルを手伝うことで“ヘリウム危機”を乗り越えられないか、検討に入った。(取材=編集委員・山本佳世子) ヘリウムは沸点がマイナス269度Cで全元素の中で最も低い。超電導材料などを液体ヘリウムに浸すと、蒸発熱などにより対象物は極低温に冷やされる。病院の磁気共鳴断層撮影装置(MRI)や量子コンピューターもこの特性を利用する。 販売の半分程度を占める産業用は、不活性ガスとして光ファイバーや半導体製造に使われている。また水素の次に軽いガスとして気球にも使われる。 ヘリウムの生産は地下の天然ガスから抽出する。世界生産の約6割を占める米国は戦略物資と位置付け、国外への販売を2021年に終了する。同じく生産の3割を占めるカタールは周辺国との国交断絶で船便の遅れが目立つ。18年秋の供給側の国際会合を機に、販売が絞られ値上げが進行。先行きが見えないという。 ヘリウムの入手が困難になり、研究者の間では「実験ができなくなる」との悲痛な声が上がる。宇宙航空研究開発機構(JAXA)は、観測気球用ヘリウムが十分に確保できず実験計画を変更したことを記者会見で明らかにした。 日本では研究向けの販売シェアは低いが、使用量では3割とのデータもある。これは大学など全国30―40カ所にヘリウムの再生施設があり、再生使用しているためだ。このうち東大物性研は、他大学の研究も支援する「共同利用・共同研究拠点」で、加速器関連機関を除くと最大規模だ。ほぼ全研究室に張り巡らせた配管で使用済みガスを回収・精製・液化する大型設備を動かしている。 これに対して産業用の多くは、ヘリウムガスを大気中に捨てている。再生設備などに数億円がかかり、高圧ガス保安法の対応もいるためだ。そこで東大物性研は「ガス会社と連携してヘリウムを回収し、物性研の設備で再生できないか」(山下穣准教授=物性研低温委員長)と調整に動く。大学・研究機関の新たな社会貢献として注目されそうだ。

続きを読む

関連する記事はこちら

特集