再生医療をともに育てる、日米英で世界初の国際規格を発行

「標準化」がキーワード

 標準化は最先端の技術を社会に普及させる上でも重要な役割を果たす。  例えば再生医療分野。これまでの医療技術では困難だった疾病が克服できる可能性が広がる一方、生きた細胞や組織を利用するだけに、安全性や有効性を担保するための品質管理に万全を期す必要がある。人類にとって未踏の領域を産業基盤として確立するには、異なる背景を持つ世界中の関係者が、同じ土俵に立ってルールづくりを議論することが第一歩であり、標準化は共通認識を醸成する術のひとつといえる。  iPS細胞に代表される幹細胞などを利用した再生医療は、効果や安全性の立証と並行して普及期を目指す新たな局面に入りつつある。政府が今夏策定した研究開発指針でも、産業化を見据えた戦略に軸足を映す姿勢が鮮明になっている。  こうした中、2018年末、国際標準化機構(ISO)から細胞製造に関する世界初の国際規格が、試薬や培地といった補助材料を対象に発行された。国内審議団体として、規格化に携わったのが、「一般社団法人再生医療イノベーションフォーラム」。再生医療の産業化へ向けたプロセスと、これによって到来する社会への合意形成に向けた具体的な道筋を描くことを目的に、産業界が主体となって2011年に設立された組織である。設立当初は会員企業14社でスタートした同フォーラムには今や250を超える企業が参画。再生医療が産業として離陸しつつある姿を印象づける。  同フォーラムの標準化部会副部会長を務める柳田豊氏(アステラス製薬研究本部IRMサテライトオフィス主席研究員)は今回の規格の意義をこう解説する。  「この規格は日米英の各国がそれぞれ起草した3部建てで構成されています。日本は第一部の『一般要求事項』を担当しましたが、これは用語とその定義、および誰が何をしなければならないかを規定しており、再生医療の『共通言語』となるものです。再生医療はさまざまな関係者が関わるだけに、同じ目線で議論を重ね共通理解を促進、あるいは保証するための『言語』が不可欠なのです」。  同じく同フォーラム標準化部会の部会長である河内幾生氏(富士フイルム知的財産本部国際標準化推進室主任技師)は産業構造の観点からさらにこう指摘する。  「再生医療には、細胞製品の製造だけでなく、評価に用いられる機器や細胞培養に関する材料、これら輸送技術など多くの業種が関わります。再生医療の実用化、産業化には、これら多業種のバリューチェーンを構築し、あわせて周辺産業を育成する必要がありますが、ルールを規定するには同じ言葉でコミュニケーションを図ることが前提となります」。  実際、再生医療の標準化分野は細胞の入手や製造、品質評価、輸送や保存のプロセス、さらには応用分野として創薬の安全性評価や有効性評価に使われる細胞に焦点を置いたものまで多岐にわたる。各工程についてさまざまなアプローチによる活動が繰り広げられているが、日本は、再生医療に関わる多業種間の連携を促すバリューチェーンネットワークの構築を重視。中でも消耗品や装置、機器に関わる分野で国際標準案を積極提案している。  標準化をめぐる交渉は、国益や企業利益がぶつかり合うイメージが強いが、意外にも再生医療は「勝った、負けたではなく、良い提案であれば他国のものであっても積極的に取り入れる傾向が強く、共同開発に進むことも珍しくない」(柳田氏)という。現在進行形のイノベーションであるだけに、ともに育てていく姿勢が色濃く、前述の細胞製造の補助材料に関する国際規格はそんな姿を象徴している。  そしていま、まさに日本が提案する新たな国際規格が、承認へ向けた最終局面を迎えている。治療用細胞の輸送に関する要求事項を定めたもので、原案がISOメンバー国に承認されれば11月末にも国際規格としての発行へ向けた手続きに入る見通しだ。  再生医療の産業化がまたひとつ前進する日は近い。

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