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「農」の安全、国際標準化進む

東京五輪・パラリンピック開催も背景に
「農」の安全、国際標準化進む

グローバルGAPに基づく留意点を農場内に掲示している(埼玉県羽生市の直営農場)

 イオンアグリ創造(千葉市美浜区)は、農産物の安全に関する国際認証「グローバルGAP」の、社外での取得支援を拡大する。これまで7団体でセミナーなどを開いており、2017年度は23団体に広げる予定だ。同認証を受けた外部団体の一部とはパートナー契約を結び、イオンの店舗で売る野菜の調達にもつなげる。

 イオンアグリ創造はイオンの子会社で全国21カ所で直営農場を運営しており、イオン傘下のスーパーマーケットで販売する野菜やコメを生産している。直営農場はテュフズードジャパン(東京都新宿区)の審査を受け、グローバルGAPを取得している。

 東京五輪・パラリンピックの組織委員会は選手村で使う食材の調達において、グローバルGAPなどの認証取得を求めている。欧州への輸出においては、グローバルGAP取得が取引条件となることも多い。「第三者に『安全』を判断してもらう必要があるとの意識が、日本の農業にも広がっている」(福永イオンアグリ創造社長)という。

 GAPは農薬の保管、衛生管理といった経営改善の指針。認証制度はグローバルGAPや日本国内の「JGAP」がある。イオンアグリ創造は制度の普及に向け、自社のマニュアルを外部に公開するなどしている。

日刊工業新聞2017年7月14日



工業製品の「ISO」と同様に


 農業法人や小売り大手の間で、農産物の品質や安全管理の標準規格「農業生産工程管理(GAP)」の認証取得に対する関心が高まっている。2017年3月、東京五輪・パラリンピックの組織委員会が、選手村で使う食材の調達にGAP認証の要件を加えたことから注目度が高まった。「国産だから安全」との“神話”に慣れた国内の消費者に、GAPの知名度は低い。ただ、工業製品などで一般的な国際標準化機構のISOなどと同様、農産物にも国際標準化の波が到来している。

 GAPは「グッド・アグリカルチャラル・プラクティス」の略称。農業の改善活動などを評価する手法の一つで、国連や農林水産省などが普及を促している。欧州の機関も普及に積極的だ。GAPの国内シンクタンクであるアジアGAP総合研究所(東京都千代田区)は「消費者も生産者も、GAPについてもっと意識を高めることが必要」と話す。

 国内で使われるGAPの種類は、一つではない。日本GAP協会(同)が管理する「JGAP」、ドイツの非営利組織が手がける「グローバルGAP」、都道府県が独自に定める規格や、農業協同組合のGAPなどがある。

 アジアGAP総研の武田泰明専務理事は「多くの農業者はグローバルGAPが世界標準と錯覚するが、実際は欧州の標準」と説明。米国にはこれと別に「プリマスGFS」や「SQF」などのGAPがあり「米国に農産物を輸出する場合は、この認証取得が不可欠なケースが多い」と指摘する。どの国へ輸出するかによって、GAPの種類は異なる。

 グローバル化で世界各国の農産物が日本国内で流通するようになり、食の安全・安心を証明する需要が高まっている。日本人の消費者に「国産品だから安全」との意識は根強い。生産者や流通事業者は、農産物の生産や出荷などに関わる各段階の情報を消費者に開示したり、畑の見学会などを催して安全・安心の裏付けを工夫している。ただ、それが必ずしも農業全体の実態を反映しているわけではない。

 例えば農薬の安全対策は「GAPでなく、生産履歴を記帳しているだけではダメなのか」の声もある。だが、風にあおられて隣の畑で散布した農薬が入ったり、使用ごとに散布機をきちんと洗浄しなかったりすれば混入の可能性が高まる。

 大手流通は取引条件にGAPの認証取得を挙げるところが増えてきた。イトーヨーカドーやローソンなどがこれにあたる。清涼飲料メーカーも日本コカ・コーラや伊藤園、サントリー食品インターナショナルなどが同様だ。アジアGAP総研の武田専務は「今後は中堅スーパーにもこの動きが加速する」とみる。

 国内GAPで最も一般的なJGAPは青果物、穀物、茶、畜産の基準書が無料で提供され、認証取得費用は個別農場の場合で6万―10万円という。海外では米ウォルマートや米コストコをはじめ、認証取得が取引に不可欠となっている。輸出を増やしたい農業法人などの関心は高い。

 武田専務は「GAP認証はカネがかかるから嫌だという農業者も多いが誤解だ」と強調する。

 GAPを導入することで「逆にコスト改善にもなる」。農林水産省の調査によると、GAPを導入した56%の農場が「販売先への信頼が改善されて取引が増えた」と回答。資材の不良在庫が減ったという農場も54%、欠品が減少した農場は40%、従業員の責任感や自主性が向上した農場は約70%に上っている。
(文=嶋田歩)

日刊工業新聞2017年6月29日



8月には新しい認証もスタート


 日本GAP協会は農産物の品質や安全管理規格「アジアGAP」を公表、8月1日から運用を開始する。国内農業者に普及しているJGAPアドバンスの中身を、世界小売り大手や食品大手が加盟する民間機関の世界食品安全イニシアチブ(GFSI)が求める内容に合わせて改定、新たな規格としてスタートする。JGAPのもう一つの規格であるJGAPベーシックは、混同を避けるため「JGAP」に改称する。アジアGAPはGFSIに承認を働きかけ、アジアで国際標準を目指す。

 農業生産工程管理のGAP規格は、ドイツや米国、オランダなどの欧米諸国が先行している。GFSIには米ウォルマートやコカ・コーラ、マクドナルド、フランスのカルフール、スイスのネスレなどが加盟し、取引にGAP取得を条件にする動きが進んでいる。

日刊工業新聞2017年7月11日




江上佑美子
江上佑美子 Egami Yumiko 科学技術部 記者
「『顔の見える野菜』が示すのはあくまで『安心』」とイオンアグリ創造の福永社長。GAP認証取得は「安全」の指標の一つではありますが、取得が目的化してはいけないとの話が印象的でした。

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