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農業は“10ヘクタールの壁”を乗り越えられるか

収入は大して増えずむしろコスト増。現実に即したIoT活用欠かせず
農業は“10ヘクタールの壁”を乗り越えられるか

農地が離れていると、農機の移動時間やコストも無視できない

 耕作放棄地や水田集積による農業の生産性向上をめぐり、“10ヘクタールの壁”問題が指摘されている。10ヘクタールを超えると規模拡大しても収入は大して増えず、むしろコストが増加してしまう。数十ヘクタールや100ヘクタールの規模拡大が容易な北海道ならまだしも、他の地域では10ヘクタールを前提とした自動化やIoT(モノのインターネット)導入が新たなテーマになりそうだ。

 農地の規模拡大が生産性向上につながらない理由として、日本総合研究所の三輪泰史シニアスペシャリストは日本農業の特殊性を挙げる。平地の多い米国や豪州と違い、日本は北海道を除くと中山間地が主流。

 「農地が20ヘクタールです」などと言っても実態は2ヘクタールや3ヘクタールなど、離れた場所に点在する農地を合計面積で述べているケースが多い。分散農地のため移動時間やコストが余計にかかる。三輪氏は「作業時間の2割が、農地から農地への移動時間にとられている」と指摘する。

 農地から農地の移動時間が必要なため、農業機械の稼働率も下がる。農林水産省が進める無人走行トラクターの研究プロジェクトも小面積なら効果は限られる。トラクターの農地から農地への移動も公道を走ることになり、安全対策のため無人運転は不可能で、規制緩和の問題もある。

 野菜の場合も同様だ。水稲に比べ、野菜は畝ごとで病虫害や生育差が生じるなど、栽培に手間がかかる。イチゴやメロンのような高単価な作物は大規模栽培に向かず、キャベツやホウレンソウのような低単価作物が中心になる。これらは豊作になれば市場価格が暴落し、生産性向上効果もたかが知れている。

アルバイトを雇う方がいいという現実


 自動機械やIoTが効果を発揮するのは、基本的に規模の大きい分野だ。農業機械も数十ヘクタールクラス規模になると複数台か大型機械が必要になり、コストも余計にかかる。作業内容によっては、人件費の安いアルバイトを雇う方がコストが安く済むことも多い。

 ただ、アルバイト人件費もコストが上昇している。地方では、同一賃金でも“イメージのよい”外食産業などに流れてしまうことも多い。高齢化で農作業者の引退が進み、虫食い状態の農地集積は今後も増える。現実に即したIoT活用策が不可欠だ。

 農作業向けにドローンビジネスを展開するナイルワークス(東京都渋谷区)の柳下洋社長は「分散農地なら農地ごとの生育監視が必要で、ドローンの有効性は高い」と指摘する。畑の場所が離れていれば移動時間だけでもかなりの負担になり、生育状態を見て必要な畑だけに肥料を散布したりすれば、全体コストを節約できる。

 気象情報サービス会社、ハレックス(東京都品川区)の越智正昭社長も「同じエリア内でも天候や気温は標高差や方角などで異なる。気象情報の有効性は高い」と語る。
日刊工業新聞2016年11月4日
明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役デジタルメディア事業担当
農業は本質的に製造業と似ており、品質向上や量産化により売り上げが上がるか、コスト削減につながることが期待されるが、今のところその点で効果は限定的のようだ。要因は大きく二つ。一つは、コストの見える化ができていないところに導入したので、効果を明確に表現できない。もう一つは、中小企業や個人事業主の集まりのため、個々で導入したところで効果が小さいから。 IoTは不要なわけではない。農業への活用は始まったばかり。工業の「インダストリー4・0」以上に、生産から加工・販売までの連携や離れた地域間での連携など、立体的な実事業連携をして初めて大きな導入効果が得られる。地域限定的なデータ蓄積では、連続する外部環境の変化を把握することができず生育や市場予測などを行うには高額な費用がかかってしまう。品目ごとやITへの理解ある全国の生産者がまとまって利用できるプラットフォームサービスが必要だろう。

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