「風の秋田」を創る、風力発電で秋田消滅の危機を救え
秋田の地元企業、ウェンティ・ジャパンの挑戦
新しい挑戦から活路を見出す
「地域のリスクはとる。それがなければ地域の成長も、地方銀行の成長もない」。意を決した北都銀行が、プロジェクトファイナンスに取り組み始めて数年が経った。プロジェクトファイナンスとは、担保主義のコーポレート・ファイナンスではなく、特定事業に特化しその収益のみから返済を求めるもの。もとは米国で生まれた金融ソリューションだ。国内で地銀が取り組む例はほとんど無い中、北都銀行はこれまでに11件の幹事案件を手掛けた。プロジェクトファイナンスは、融資する側にも極めて専門的な事業理解が求められる。
面白いのは、地銀である北都銀行がプロジェクトファイナンスに挑戦した、ということだけではない。プロジェクトファイナンスの構成比率は、一般にエクイティ(自己資本)20%、ファイナンス80%。しかし、プロジェクトコストが巨額に及ぶ風力発電事業において、その20%相当ものエクイティを持つ地元プレイヤーなど存在しない。北都銀行は、エクイティが1割に満たないケースまでをも取り扱っている。
なぜそんなハイリスクな融資ができるのか。同行でプロジェクトファイナンス室長を務める佐藤幸司氏はこう説明する。「この地域をお客様と一緒に発展させたいからです。その代わり、高めの金利設定もお客様に納得していただいている。それは銀行がリスクをとっているからだし、地域のためにやっているのだから、利益は自分たちと銀行、そして地域とでシェアしようというお客様の理解があるからです。これが地方版プロジェクトファイナンスの良いところです」(佐藤室長)
北都銀行が手掛けた70以上(プロジェクトファイナンスを含む)の再生可能エネルギー向けの融資案件は、すべてが順調に行っている。太陽光が7割、風力が2割、残りはバイオマスなど。しかし今後、秋田が風力産業を加速していくなかで、風力案件がメジャーになると見込まれる。銀行業務が厳しさを増す中、十分な収益を稼ぎ出せる事業として足場を固めてきた。「秋田は全国一、風況に恵まれています。事業者のキャッシュフロー効率が高まるので、その分資本が少なくて済む。これはもう、秋田ならではですよね」(佐藤室長)
“風力の北都銀行”という認知も、着実に形成されてきている。太平洋側の銀行や企業からも、せめてファイナンスだけでも参加させてくれという申し入れが相次いでいるみたいだ。「次に目指すのは、組み立て工事やメンテナンス工事の事業機会を県内に持ってくること」。斎藤頭取はきっぱりと言い切った。
ウェンティ・ジャパンと日本製紙との合弁企業「日本製紙ウェンティ風力株式会社」は、いま、日本製紙秋田工場の隣接地でGEの3.2MW型風力タービンの建設を進めている。建設を担う三井造船に、風車の土台づくりに必要な“テンプレート”と呼ばれる大型部品を供給するのは、地元企業の三栄機械だ。
三栄機械は、秋田風作戦コンソーシアムのメンバーだ。縮小の一途を辿る秋田の産業に危機感を抱きながらも、斉藤民一社長は「秋田風作戦には非常に大きな希望がある」と語る。「高度経済成長期は、機会あるものを皆で分け合っていれば十分だったんです。でも今は、それぞれが強みを自覚し、皆で何ができるかを見つけて実行に移すべき時。厳しい時こそ、差別化のチャンスですからね」。三栄機械の歴史を振り返ると、困難な時期も、あえて新たなことに挑戦することで乗り越えてきた。「挑戦をして、活路を見出すんです。だいたいほら、新しいことをやらないと楽しくないじゃない!」と笑う斉藤社長の表情は眩しい。
数年前は中央資本によって建てられた風車を横目に眺めていただけの、専門ノウハウも経験もなかった地元企業や銀行たちが、タッグを組んで風車を回している。
「世界に誇れる風力発電のメッカを目指す。研究成果やイノベーションは秋田から起こる。研究者、開発者、事業者が世界各国から集まってくる。“風の秋田”を作るのが夢」(斉藤頭取)。部品製造だけでなくアカデミックな仕事を増やし、若い人が生き生きと働く地域社会を目指す、との言葉を聞いて、まるでそれが実現された秋田が目に見えるかのように感じたのは、地域のプレイヤーたちが確かな手応えと自信を感じ始めているからだろう。
(構成=大森翔平)