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「HONDAらしさ」を喪失させた前のビジョンから何が変わったか

創造と効率的な経営システムの両立させ、イノベーターになる強い意志
「HONDAらしさ」を喪失させた前のビジョンから何が変わったか

八郷社長

 ホンダが技術革新への対応を加速する。電動化や先進安全技術の導入拡大に加え、2025年ころまでに完全自動運転の実現を目指す。ホンダならではの独自色を盛り込んだ次世代技術の確立を通じ、魅力あるクルマ作りの進化とともに将来成長の礎を築く構えだ。

 「電動化と先進安全技術の導入を最重要項目として取り組む」。八郷隆弘社長は、今後注力すべき技術の開発方針に強い意気込みを示す。

 二酸化炭素排出量ゼロと交通事故ゼロ社会の実現に向け、自動車の技術開発競争は激化している。ホンダとして、これらの領域で技術革新をリードすることで、付加価値の高い商品開発につなげる狙いだ。

30年には3分の2を電動車両に


 同社は30年に、4輪車の世界販売台数の3分の2を電気自動車(EV)などの電動車両に置き換える計画。それに向け、プラグインハイブリッド車(PHV)を開発の中心に据えつつEVの開発も強化する。

 18年には中国専用のEVを投入するほか、中国以外の地域向けにも専用モデルを開発中だ。また16年10月には開発の迅速化に向けて、パワートレインから車体まで一貫で開発する専門組織「EV開発室」を研究開発子会社の本田技術研究所に設置した。今後は「この組織を中心に、電動車両の開発を積極的に進める」(八郷社長)方針だ。

 先進安全分野では、安全運転支援技術「ホンダセンシング」の導入を拡大する。日本で、今秋に発売する軽自動車「N−BOX」の新モデル以降、すべての新型車で標準装備するほか、欧米や中国でも新型モデルから適用する。

 将来の安全確保の一つとして、最も期待されるのが自動運転分野の技術開発だ。ホンダは同分野で、事故防止だけでなく「移動が楽しくなる時間と空間の創出」(同)を重視。滑らかで自然な運転特性や快適な移動の提供に向けた車両開発を進めている。
クラリティシリーズ(右から電気自動車、プラグインハイブリッド車、燃料電池車)

25年頃に「レベル4」実現へ


 まずは20年に高速道路で自動運転を実現し、その後は一般道路にも適用を拡大。25年ころには、天候や道路環境などの限定条件でドライバーが運転に関与しない「レベル4」に対応する自動運転技術の確立を目指す。

 自動車の先進技術に対するニーズの高まりとメーカー間の開発競争が進む中、いかに独自色を打ち出した商品作りに結びつけられるか。そのスピード感が、ホンダの成長のカギを握ることになりそうだ。

長期ビジョンで移動と暮らしの進化を主導


 ホンダは2030年までの長期ビジョンを策定した。30年にあるべき姿として、取り組む領域を「移動の進化」と「暮らしの価値創造」の二つに定め、人々の移動と暮らしの進化をリードする企業を目指す。ビジョン実現に向け、地域の連携促進や既存事業の基盤強化に取り組み、既存事業の進化や新たな価値創造につなげる。

 本田技術研究所で7日まで開催した報道陣向けイベントで、八郷隆弘社長が明らかにした。事業環境の変化が激しさを増す中、地域拠点間の協調と連携を深めることで「リスクをミニマイズ(最小化)する」(八郷社長)。

 またパワートレインとパッケージングを自社のコア技術と定めた上で、他社との連携を今後さらに加速する。

 既存事業では4輪事業を中心に、魅力ある車作りと開発・生産効率の向上、総合的なコスト削減を目指す。部品やユニットの共有化を含めた新設計手法の導入を検討するほか、開発、調達、生産の各部門と連携して総合的なコスト低減を担う組織「四輪原価企画部」を本社に新設する。こうした取り組みを19年発売予定の4輪車から導入する。
日刊工業新聞2017年6月9日
中西孝樹
中西孝樹 Nakanishi Takaki ナカニシ自動車産業リサーチ 代表
 モビリティ革命のイノベーターとして企業を進化させる強い意志を「2030年ビジョン」として表明した。地域が主導するHondaの意思決定「Hondaらしさ」の源泉ではあるが、2020年ビジョンの中で経営の暴走は起こり、非効率性がHondaのコスト競争力、技術力、独創性、そして最も大切な「Hondaらしさ」を喪失させる負の連鎖に陥れてきた。  新ビジョンは、「Hondaらしさ」の創造と効率的な経営システムの両立を目指すものだ。ホンダらしさの源泉を活かしつつ、全体最適を進めて効率を改善させ、この効果を持って将来研究を強化する。その出口には、電動化、知能化、IT化のモビリティ革命で再び輝くHondaを生み出す可能性が見えてくる。

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