東急の「企業遺伝子」、五島イズムは色あせない
東急電鉄社長・野本弘文 大局的な視点を学ぶ
日本企業の多くは、親会社がグループの頂点に君臨し、その下に子会社や孫会社がぶらさがる「短冊型」組織が一般的だ。情報の一元化や管理面では効率的な仕組みかもしれないが、経済や社会の先行き不確実性が増し、迅速な経営判断が求められるいま、硬直的なピラミッド構造では市場や消費者の変化に機敏に対応できない。
かつての東急グループも、電鉄を頂点とする典型的な短冊型組織を形成していた。ピーク時には500を超える子会社や関連会社が群雄割拠し、それぞれの思惑で事業が肥大化していった。その結果、バブル崩壊などの経済環境の急激な変化についていけず、グループ経営が危機的な状況に陥った時期もあった。
先達のおかげで、現在のグループの経営状況やグループ各社の関係は良好だ。こうした中で、いま私が志向するのは「楕円(だえん)型経営」だ。
膨張と縮小
それは、当社を中心として、あたかも公転する惑星のようにグループ会社が縦横無尽につながり合うイメージだ。あるいはシナプスで接続される脳神経細胞のような姿とも言える。
求心力となる中核企業は必要だが、必ずしも当社が常に管理の目を光らせる必要はない。時代の変化やニーズに応じて、膨張や縮小を繰り返しながら、結果として「ひとつの東急」という楕円の輪を広げていけばいいと考えている。
こうした組織論にたどりついた背景には、鉄道会社の「本流」というより、開発畑やメディア事業に長く携わってきた私自身の経歴もあるかもしれない。グループ会社のケーブルテレビ大手、イッツ・コミュニケーションズ(イッツコム)社長時代には、めまぐるしい技術革新を肌で感じ、適切な施策を迅速に講じることの重要性を学んだ。
次なる成長
沿線開発のノウハウを生かし、ベトナムなど海外で展開する街づくりや仙台空港の運営権取得、電力小売りなど、ここ数年で参入した新規事業だけをみても、今や電鉄1社で担える案件はほとんどない。だからこそ機動的なグループ経営がカギとなる。
5年後の2022年、東急電鉄は創業100年の節目を迎える。「ひとつの東急」として真の総合力を発揮した時、次なる成長の「かたち」が見えてくる。それは同時に、新たな100年を支える理念となるかもしれない。
日刊工業新聞2017年4月27日、28日