渦中の東芝も参画する理研のAIセンター、世界の“数学の戦い”へ
NECと富士通も連携、深層学習で多勢に無勢を避ける
理化学研究所は東芝、NEC、富士通の3社と人工知能(AI)の研究で連携する。4月には理研の「革新知能統合研究センター(AIP)」内に三つの連携センターが立ち上がる。理研と産業界の知恵をどう融合するかがカギとなる。杉山将理研AIPセンター長(東京大学教授)は「研究者同士が顔を突き合わせることにも意義がある」と語る。三つの連携センターが三本の矢となり、日本全体のAI研究が加速することを期待したい。
理研AIPは文部科学省が推進する「人工知能(AI)/ビッグデータ/IoT(モノのインターネット)/サイバーセキュリティ統合プロジェクト」事業の研究開発拠点として、2016年に発足した。連携センターは理研の研究者と産業界との共同研究の場となる。
3社はそれぞれの強みを生かした研究をテーマに掲げる。東芝は「自ら学ぶAI」を標榜し、工場や発電所などのプラントの自律操業やインフラ点検の自動化を目指す。NECは頻度の低い少量データに適用可能な機械学習と、複数のAI間で調整しながら自動制御する技術に照準を合わせる。
富士通は少量のデータや不完全なデータであっても的確に未来を予測できる機械学習や、AIで高度化したシミュレーターの開発に加え、複雑な社会課題や経済課題に解決に役立つ大規模知識構造化の研究開発に取り組む。それぞれ力点は異なるが、2020年までの5年間で成果を積み上げていく計画だ。
一方、今回の枠組みでは、ビジネスで競合関係にある3社の研究者が同一フロアに身を置き、日々の研究に向き合うことでも注目される。
研究者同士の知識交流が促進したり、研究テーマの重複を調整したりできれば、日本全体としてのAI研究の底上げにつながる。何よりも優秀な頭脳を集積することで、相乗効果が期待できる。
ただ、欧米に比べ、日本のAI研究者は絶対数が少ないのが現実だ。AIは過去2回にわたるブームと冬の時代を経て、現在の第3次ブームに至っている。
AI研究の草分けでもあるソニーコンピュータサイエンス研究所(東京都品川区)の北野宏明社長は「前回のブームでは試行錯誤しながらプログラミングで頑張っていたが、今回は戦っている場所が前回とは根本的に異なる」と指摘する。
今回のAIブームで脚光を浴びるディープラーニング(深層学習)はその象徴。「難しい数式を見ながら議論ができ、数式をこう書けば学習能力がどのくらいよくなるかなど、数学理論が分からないと歯が立たない。まさに数学の戦いだ」という。
もちろん、日本にも優秀な人材はいるが、多勢に無勢といった観もある。米シリコンバレーでは人材の争奪戦が繰り広げられ、巨額な研究資金も流れ込んでいる。
研究開発についてもスピードで後れを取れば勝ち目はない。こうした中で、「日本がAIで世界に勝てるのか」といった疑問は残る。
日本には世界的に競争力のある製造業者が数多く存在し、さらに歴史の長い企業は膨大なデータを持っている。これらはAIを発展させる上で必要なビッグデータという宝の山といえる。戦い方と戦う場所さえ間違えなければ、日本には大きなチャンスがある。
(文=斉藤実)
理研AIPは文部科学省が推進する「人工知能(AI)/ビッグデータ/IoT(モノのインターネット)/サイバーセキュリティ統合プロジェクト」事業の研究開発拠点として、2016年に発足した。連携センターは理研の研究者と産業界との共同研究の場となる。
3社はそれぞれの強みを生かした研究をテーマに掲げる。東芝は「自ら学ぶAI」を標榜し、工場や発電所などのプラントの自律操業やインフラ点検の自動化を目指す。NECは頻度の低い少量データに適用可能な機械学習と、複数のAI間で調整しながら自動制御する技術に照準を合わせる。
富士通は少量のデータや不完全なデータであっても的確に未来を予測できる機械学習や、AIで高度化したシミュレーターの開発に加え、複雑な社会課題や経済課題に解決に役立つ大規模知識構造化の研究開発に取り組む。それぞれ力点は異なるが、2020年までの5年間で成果を積み上げていく計画だ。
一方、今回の枠組みでは、ビジネスで競合関係にある3社の研究者が同一フロアに身を置き、日々の研究に向き合うことでも注目される。
研究者同士の知識交流が促進したり、研究テーマの重複を調整したりできれば、日本全体としてのAI研究の底上げにつながる。何よりも優秀な頭脳を集積することで、相乗効果が期待できる。
ただ、欧米に比べ、日本のAI研究者は絶対数が少ないのが現実だ。AIは過去2回にわたるブームと冬の時代を経て、現在の第3次ブームに至っている。
AI研究の草分けでもあるソニーコンピュータサイエンス研究所(東京都品川区)の北野宏明社長は「前回のブームでは試行錯誤しながらプログラミングで頑張っていたが、今回は戦っている場所が前回とは根本的に異なる」と指摘する。
今回のAIブームで脚光を浴びるディープラーニング(深層学習)はその象徴。「難しい数式を見ながら議論ができ、数式をこう書けば学習能力がどのくらいよくなるかなど、数学理論が分からないと歯が立たない。まさに数学の戦いだ」という。
もちろん、日本にも優秀な人材はいるが、多勢に無勢といった観もある。米シリコンバレーでは人材の争奪戦が繰り広げられ、巨額な研究資金も流れ込んでいる。
研究開発についてもスピードで後れを取れば勝ち目はない。こうした中で、「日本がAIで世界に勝てるのか」といった疑問は残る。
日本には世界的に競争力のある製造業者が数多く存在し、さらに歴史の長い企業は膨大なデータを持っている。これらはAIを発展させる上で必要なビッグデータという宝の山といえる。戦い方と戦う場所さえ間違えなければ、日本には大きなチャンスがある。
(文=斉藤実)
日刊工業新聞電子版2017年3月13日