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携帯電波外でドローン巡回、「スターリンク」が変えるインフラ点検の世界

携帯電波外でドローン巡回、「スターリンク」が変えるインフラ点検の世界

仏向ポンプ場屋内に設置したスカイディオ・ドック

国内通信大手が米スペースXの低軌道衛星通信「スターリンク」を用いた自律飛行型飛行ロボット(ドローン)を使って公共インフラを点検する実証実験を本格化させている。NTTコミュニケーションズ(NTTコム)は19日、横浜市の配水ポンプ場の自動巡回に成功したと発表。KDDIは山梨県大月市のダムで実証を行った。設備老朽化や人手不足が懸念される中、携帯電波が届かない地域に通信環境を構築できるスターリンクを生かした自動点検の普及が期待される。(編集委員・水嶋真人)

NTTコムは仏向ポンプ場(横浜市保土ケ谷区)の屋内で自動巡回するドローンの正確性や安定性、撮影画像の有用性、携帯電波が届きにくい場所での電波品質を調査した。

スターリンクを構成する低軌道衛星群を使い、従来の衛星通信よりも高速・低遅延なインターネットサービスを提供する「スターリンクビジネス」を活用。同サービスの電波を中継することにより、配線不要で広範囲にWi―Fi(ワイファイ)エリアを構築できる「ピコセラ」を複数台組み合わせ、ポンプ場内全域で安定した通信環境を構築した。

屋内用ドローンポート「スカイディオ・ドック」で、ドローンの自動離着陸と自動給電を実施。事前設定した自動飛行ルートを複数回実行し、繰り返し同じ位置で撮影した対象物の映像や画像をリアルタイムに伝送。現地の目視確認と同等レベルの確認が遠隔から可能なことを確認した。

横浜市水道局は、市内23カ所の配水ポンプ場の巡視点検を月1回実施している。ポンプ設備の異常有無を職員が巡回して人の目で判断しているが、現地への移動に時間を要するほか、ベテラン職員の退職を見据えた巡視点検の体制構築が課題となっていた。横浜市水道局浄水部の羽布津慎一浄水課長は「今回の実証の有用性を確認した上で、毎年1カ所ずつ導入していきたい」と意気込む。

KDDIは、スターリンクで自社の携帯通信ブランド「au」の通信エリアを構築する企業向けサービス「サテライト・モバイル・リンク」を用い、自律飛行型ドローンを使って葛野川ダム(山梨県大月市)の地震発生後を想定した臨時点検の実証を行った。

葛野川ダムの水門上部にスターリンクと第4世代通信(4GLTE)アンテナを設置。ダムの堤体から調整池上流部約2キロメートルの範囲まで通信環境を構築し、緊急通報を含む音声電話やデータ通信を可能にした。

葛野川ダムでの地震発生後の1次点検では作業員が必ず現場へ出向く必要があった。管轄事務所からダムへの移動経路は道路の陥没や落石などにより安全状況が不明となる。ダムでも一定時間内に全ての点検箇所を目視確認して報告をしなければならず、ダムの健全性を迅速に把握することが困難だった。

日刊工業新聞 2024年11月20日

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