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輸送費安価に…「H3」が挑むロケット作りの最前線

H3ロケット徹底解剖(3)
輸送費安価に…「H3」が挑むロケット作りの最前線

衛星などに使う宇宙用部品。宇宙空間を模した環境で何度も試験しており部品によっては1個数百万円になるものもある

部品、カギ握る3D造形

米国を中心に宇宙輸送を担う企業は増えており、ユーザーはどの企業のロケットに衛星を積むかを選べる時代になった。その中で、ユーザーがロケットを選ぶ決め手となる一つが輸送コストだ。宇宙航空研究開発機構(JAXA)と三菱重工業が共同開発した大型基幹ロケット「H3」も、従来機「H2A」よりも安価な輸送費を目指してさまざまな工夫を施した。性能を高めつつ、輸送費の安価に挑戦したロケット作りの最前線を追った。

H3はH2Aの技術を継承したロケットであり、H2Aよりも最大で半額となる約50億円での打ち上げを目指している。この目標に向けた開発を現在も進めており、徐々に改良や新形態の実証などを実施する。新技術を投入してH2Aよりも高性能でありつつ、安価での打ち上げを実現すべく機体の設計や開発を見直した。JAXAの有田誠H3プロジェクトマネージャは「H3は打ち上げだけに特化したロケットとして作られた。低コストにするため、搭載機器の選別なども行った」と振り返る。

 

特にコストダウンのカギとなっているのが民生部品の活用だ。宇宙開発では放射線や寒暖差といった宇宙空間特有の環境に耐えられる宇宙専用の部品を使うことが多い。ただ、こうした部品は宇宙空間でも正常に機能させるために特殊な材料を使い、宇宙を模擬した環境試験を何度も実施する。そのため部品1個の値段が数百万円に上ることもあり、高コスト化する要因になっている。

そこで、H3では使う部品の9割に車載部品を採用。JAXAの岡田匡史理事は「ロケットの打ち上げから衛星分離までは数十分―数時間。衛星の運用のように数年単位で宇宙空間にさらされないため、民生部品で代用できるものもある」と強調する。車載部品は技術・機能が洗練されており、他業種でも応用しやすくロケットにも適用している。

また3次元(3D)造形を使うことで数百個からなる部品を一括で作ることができ、低コスト化に貢献している。中でも、現在開発中で今後実証予定の恒久的に使うメーンエンジン「タイプ2」は3D造形を多く活用している。H3の目玉の一つである補助ロケットがなくメーンエンジン3基のみで構成される「3―0形態」は、タイプ2を3基使うことで打ち上げ輸送費50億円を達成できるため、3D造形が安価のカギとなっている。

今はJAXA主導だが、H3の安定的な打ち上げや開発にめどが付いたタイミングで三菱重工業に事業移管する予定だ。三菱重工の江口雅之執行役員防衛・宇宙セグメント長は「10―15号機にも競争力のある価格を実現する」と意気込む。これまでにアラブ首長国連邦宇宙庁や仏ユーテルサットと打ち上げに関する契約を結んでおり、海外からの顧客獲得も順調だ。3―0形態が実現すれば大型衛星だけでなく複数の小型衛星の輸送にも適応するため、顧客の幅が広がり国内の需要も高まると期待される。(木曜日に掲載)

日刊工業新聞 2024年10月24日

特集・連載情報

「H3ロケット」徹底解剖
「H3ロケット」徹底解剖
宇宙航空研究開発機構(JAXA)と三菱重工業が開発した新型の大型基幹ロケット「H3」の運用が本格化した。開発開始から約10年が経過する中で安心・安全で従来よりも安価なロケットを目指し、運用しながら開発も進めて技術を進化させている。カギとなる技術や打ち上げ延期・失敗を乗り越えて得られた今のカタチ、H3の目指すところなどを取り上げる。

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