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次世代半導体・ペロブスカイト太陽電池…脱炭素・経済安保に重点、25年度概算要求をまるっと紹介

次世代半導体・ペロブスカイト太陽電池…脱炭素・経済安保に重点、25年度概算要求をまるっと紹介

フィルム型ペロブスカイト太陽電池(積水化学工業は東京都と下水道施設で実証実験を行った

各省庁の2025年度予算の概算要求が出そろった。蓄電池をはじめとしたグリーン・トランスフォーメーション(GX)投資の拡大、次世代半導体の研究開発など脱炭素や経済安全保障につながるテーマが目立った。また能登半島地震などを踏まえた防災・減災対策支援も手厚くした。経済産業、総務、文部科学の注力事業をまとめた。

【経産省】蓄電池供給網やGX対策重点

経済産業省は脱炭素や経済安全保障といったテーマを軸に、国内投資を加速させる政策に重点的に予算を充てる。最も額が大きいのは蓄電池の製造サプライチェーン強靱(きょうじん)化支援事業で1778億円を計上した。電気自動車(EV)などに使うリチウムイオン電池の部素材や製造設備などに加え、新たに全固体電池の設備投資も対象に加える。

またペロブスカイト太陽電池燃料電池洋上風力発電、水素製造のための水電解装置などの設備投資向けに、GXサプライチェーン(供給網)構築支援事業として777億円を要求する。斎藤健経産相は「全固体やペロブスカイトなど、世界に先駆けた市場投入に向け本格的な設備投資支援を行いたい」と力を込める。

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中小企業による省エネルギー先進設備の導入や設備更新で計2093億円を計上するなど、GX・脱炭素エネルギー関連の要求額は1兆2487億円。総額は24年度当初予算比23・7%増の2兆3596億円で、このうちGX経済移行債を財源とするGX対策費を同52・7%増の9818億円に引き上げた。開発実証段階から商用段階への移行を後押しする狙いだ。

税制改正要望では、地域の産業育成を強化する項目が目立つ。民間企業と自治体が連携した工業団地整備でも、地権者による土地売却益の一部を所得控除する税制を創設する。また自治体が戦略投資する重点産業分野における設備投資への優遇措置や、売上高100億円を目指す中小企業への優遇税制など、既存税制の拡充も求めている。

【総務省】携帯基地局を強靱化

災害対策には携帯通信基地局の強靱化が欠かせない(石川県七尾市の携帯基地局をチェックするNTTドコモの担当者)

総務省は通信・放送インフラの強靱(きょうじん)化に617億円を計上した。このうち、災害時における携帯通信基地局の強靱化や復旧体制の拡充などを新規事業として54億円を盛り込む。1月の能登半島地震では土砂崩れによる道路の寸断で立ち入り困難地域の通信インフラの復旧に時間がかかった。これを踏まえ、基地局用蓄電池の大容量化、発電機や太陽光パネル、衛星の活用を推進する。携帯事業者間で携帯電波を融通し合う「事業者間ローミング」の電波を発射する実用化試験も行う。

地域DX(デジタル変革)の推進には951億円を要求する。このうち、マイナンバーカードを用いた手続きの原則オンライン化といった自治体フロントヤード改革の推進・横展開を新規事業として9億円計上した。マイナ保険証を基本とする仕組みへの円滑な移行、運転免許証や在留カードなど各種カードの一体化といったマイナンバーカードの利便性・機能向上・更新環境整備に24年度当初予算比2倍の920億円を盛り込む。

国際競争力の強化に向けた新技術開発・国際的ルール作り・海外展開の一体的推進には563億円を充てる。生成AIの基盤となる日本の大規模言語モデル(LLM)開発力強化に向けたデータ整備・拡充に17億円、オール光ネットワーク技術などビヨンド5G(第5世代通信)研究開発の推進に24年度当初予算比0・3%減の159億円を計上した。

【文科省】次世代半導体研究に注力

文部科学省は、次世代半導体の研究開発に注力する。30年以降の社会での適用(ユースケース)を見据えると、ロボットなど機械と人工知能(AI)の融合のためのシステムが必要。その基盤技術となる「ビヨンド1ナノ世代チップ」「次世代エッジAI半導体」などの実現に向けた研究を進める。次世代半導体関連で総額94億円を要求する。

これらの研究にはさまざまな装置や実験環境が必要で、国内の最先端装置の共用化やデータを利活用できる「マテリアル先端リサーチインフラ(ARIM)」と連携した半導体研究の拠点を整備する。人材育成では研究者だけでなく、大学の学部生や高等専門学校生を対象とした製造現場で活躍する技術者を育てる。地域ごとの大学や高専、企業、自治体と連携した体制を構築する。

また、医学系の研究開発の強化に向けた支援も始める。要求額は26億円。大学の医学部や大学病院に所属する医師であり研究者は、当直や手術が優先されるため研究時間が少ないのが現状だ。こうした状況を変えるため医学部や大学病院の取り組みと研究活動を両面から支援する仕組みを取り入れる。医師の研究時間を確保することで、研究成果の創出を狙う。

ほかに、スーパーコンピューター「富岳」の後継機開発・整備や研究開発マネジメント人材のキャリアパス振興策の立ち上げなどを盛り込む。研究開発力を向上させるために研究費と研究設備、人材育成に着目した事業を進め、国際競争力を高める。

日刊工業新聞 2024年09月02日の記事から一部抜粋

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