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日本に航空機を飛ばせない…海外便に給油難、航空燃料の安定調達急務

日本に航空機を飛ばせない…海外便に給油難、航空燃料の安定調達急務

成田空港では1週間に6社57便の新規就航や増便を見合わせている(イメージ)

日本に航空機を飛ばせない―。円安でインバウンド(訪日外国人)が急増する中、海外航空会社が日本への新規就航や増便を希望しても、日本で航空燃料が調達できず諦める例が増えている。地方空港でも起きている。人気観光地への過度の集中を防ぐオーバーツーリズム対策として、地方誘客を進める国にとっては思わぬ足かせだ。このため官民タスクフォースで対策を検討、需要量の把握、供給量確保、輸送体制強化などの方針を打ち出した。(編集委員・板崎英士)

航空会社・元売り、国がつなぐ

燃料を所管する経済産業省資源エネルギー庁と空港や物流を所管する国土交通省は、航空会社、空港、石油元売り、海運などが参加する「航空燃料供給不足への対応に向けた官民タスクフォース」を6月18日に立ち上げた。「円滑な供給に支障が生じないようスピード感をもって対応する」(斉藤鉄夫国交相)と1カ月で行動計画案をとりまとめた。近く正式に出すが「石油元売りには、輸入などできることはすぐやってほしいとお願いした」(永井岳彦資源エネルギー庁燃料供給基盤整備課長)。

航空燃料供給不足に対する行動計画案
短期の取り組みでは、まず各空港ごとの航空需要を前もって把握する仕組みを設ける。航空ダイヤは夏ダイヤと冬ダイヤの年2回更新しており、間に合えば冬ダイヤから実施する。各航空会社へのヒアリングで大まかな傾向を把握、チャーター便などが増えても余裕を持って対応できるようにする。「企業競争に影響を与えない形で国が需要量を把握し、エアラインと元売りをつなぐ」(広田健久国交省航空ネットワーク企画課長)。

昨年に精製を停止したENEOS和歌山製油所

供給量の確保は、元売りへの増産要請と商社も含めた輸入拡大の2本立て。化石燃料の需要は脱炭素化に向け大きく減るが、航空燃料だけは微増傾向にある。石油元売りは既に3社に集約され、製油所の統廃合を進めてきた。国内の原油処理能力は23年10月末月の21カ所・日量333万700バレルから、24年6月には19カ所・同311万400バレルに減少した。石油製品は連産品のため、航空燃料だけを増産することは不可能。このため定期修繕で止まっている製油所分を他の製油所で増産したり、需要や時期を見て航空燃料と成分が近い灯油と生産バランスを取る。また、石油製品は需給に応じて日常的にアジア諸国と輸出入で調整している。今回、元売りではなく空港が商社経由で輸入する動きもある。コロナ禍前は航空会社が直接輸入した例もあった。

内航船転用で輸送増強

輸送体制は内航船とタンクローリーの増強が柱。輸入しても空港まで届ける手段がなければムダになる。働き方改革による船員や運転手の残業規制で人手不足が生じ、機材も急な需要増に対応できない。このためまず外航船の内航船への転用を進める。「船籍と船員を変える必要があるが2―3カ月で対応できる」(伊勢尚史国交省内航課長)。内航転換しても、市況を見て外航に出るなど船主の選択肢は拡大する。さらに内航船は輸送ロットに合わせフル積載しないこともあるが、最大量を積載することで輸送能力を高める。

国は外航船の内航船転換を後押しする
こうした足元の対策に加え、中長期的に更なる供給力の確保、輸送体制の強化に取り組む。製油所と各空港に航空燃料タンクが足りているのかを調査し、不足分を増強する。タンクローリーの台数の増強、内航船の大型化、それに対応する港の荷役設備の更新も行う。足元の対策は基本的には民間企業の取り組みのため、国は円滑に進むよう側面支援が中心だ。ただ、タンクの増設などは直接支援の可能性も検討する。

ドライバー不足影響

成田空港をはじめ北海道、広島、熊本などの地方空港でも顕著になった航空燃料不足。ただ、世界的に見ると航空燃料は不足しておらずイレギュラーな現象だ。コロナ禍の収束、円安によるインバウンドの急増、4月から始まったトラックドライバーの残業規制、いわゆる「2024年問題」が重なったことが原因だ。元売りは必要な航空燃料は基本的に過不足なく確保している。今回、突発的な需要増に空港までの輸送ができなくなったことが最大の要因だ。遠因では製油所の統廃合で空港までの平均輸送距離が、10年前の400キロメートル台から約100キロメートル近く延びたこともある。一部の元売りや空港の燃料供給会社は、急増する海外航空会社の要望に対し取捨選択せず一律に断ったケースもあり問題が顕在化した。一部の海外航空会社とは、コストで折り合わないケースもあった。こうした情報のミスマッチと輸送力という二つのボトルネックの解消が対策のカギとなる。

石油製品の平均輸送距離
また空港のタンクは石油各社が共用し、航空会社は使った分を精算するのが基本だ。このため石油会社は燃料成分が劣化していないか確認してタンクに入れる必要がある。国際ルールでは積地で必要な検査をすれば、揚地では簡易検査で済む。商社経由などの燃料輸入が増えてくると、こうした細部の管理や確認も重要となる。

インタビュー オープン化、石化物流参入促す 桃山学院大学経営学部教授・小嶌正稔氏

桃山学院大学経営学部教授・小嶌正稔氏

石油流通に詳しい小嶌正稔桃山学院大学経営学部教授に航空燃料不足の問題について聞いた。

―問題の本質はどこにありますか。

「石油物流の硬直化だ。元売りを3社に集約した際、本来ならば物流は切り離して競争原理を働かせるべきだったが、国は競争環境の維持を行うことなく、大手3社による系列化・専属化が進んだ。タンカーなどの大型化による効率化は、需要の変化に敏感に対応できなくなり、今回の燃料不足につながっている」

―今、必要な対策は。

「内航タンカーやタンクローリーの業者の系列からの切り離しや、新規参入を促すべきだ。世界と競争している石油化学業界ではフリーの業者も依然活躍しており、競争も活発。石油業界は荷主(元売り)の力が強すぎて正当な競争環境にない。物流をオープン化し石化の物流が石油に参入すれば改善する可能性はある」

―成田国際空港が商社経由で燃料を輸入します。

「真の狙いが分からない。新規参入したい航空会社は燃料の保管や品質管理、給油などをすべて元売りに任せるイントゥプレーン契約を望んでいるが、空港による輸入燃料は直接タンクに入れてその先は航空会社に任せるインタンク契約になる。それとも一度、元売りに転売し、元売りと航空会社が契約するのだろうか」

―行動計画案で着目する点は。

「早めに需要を把握することは必要だ。航空会社は発着枠を確保してからハンドリング、燃料調達、チケット販売までに少なくとも数カ月かかる。今は元売りは1年前に必要量を求めて計画を立てるため、需要急増による燃料の不足量は分からない。また、空港での給油人員の確保・育成も課題。同じ航空機であっても航空会社が異なれば必要な手順や手続きが異なるため、簡単に対応できない。特にコロナ禍で経験を積んだ人員が減っており、新規就航の依頼に対応できる人の育成は急がれる」

日刊工業新聞 2024年7月18日

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