「構造物鉄工」に挑む豊田織機の技能者、武者修行こなして有終の美へ
世界の若き匠が持ち前の技能を競う第47回技能五輪国際大会が9月10日―15日にフランスのリヨンで開かれる。隔年開催だが前回はコロナ禍の影響で15カ国の分散開催だった。久々に1国に技能者が集う大会へ「モノづくりニッポン」代表で臨む主な選手を紹介する。
機関車やクレーン、風車などの模型を金属材料で造る競技が構造物鉄工だ。完成品は縦横高さがそれぞれ500ミリ―800ミリメートルで、総重量は30キロ―40キログラムにもなる。豊田自動織機の天野玲さんは、2022年の国内大会で同社で7年ぶりに金メダルを獲得した。翌23年も2連覇を果たすなど確かな実力を示した。磨き上げた力を遺憾なく発揮し、国際大会で最も輝くメダルを目指す。
中学3年生ではサッカーのクラブチームに所属し、全国大会に出場するほどのスポーツ少年だった。「好きだったから続けられた」と振り返る。そんな天野選手と技能五輪との出会いは高校生の頃。学校に掲示されたポスターに興味を持ち、豊田自動織機の技能専修学園の門をたたいた。入社後すぐに実施された説明会で「(技能五輪に対する)やる気がさらに沸いた」と語る。
国際大会では、計22時間に及ぶ課題をこなす。当日に公開された図面や材料から指定の形に仕上げる。国内大会は技能者の手作業による加工のみだが、国際大会では溶接機やプレス機などが使用可能。
ただ、天野さんが国際大会の選手に選ばれたのは23年11月。同社製造部総括室人材育成グループ技能五輪ワーキンググループの時松武志リーダーは「複数の溶接方法を覚えるには1年では足りない」とその難しさを語る。同職種は中国や韓国の選手が上位を占めており、これらの国は国内と国際でルールが同じ場合が多いという。
それでも時松リーダーは「経験に差があるが勝てるように訓練している」と強調。同じく技能五輪経験者の梶谷大将エキスパートや安田将貴指導員とチームでメダル獲得に挑む。
7月にはフランスで2週間の“武者修行”も敢行。仏の元技能五輪選手と訓練を重ね、多くの学びを得た。「これで大丈夫だと思っていたことが、減点の対象になることが分かった」(天野選手)と説明する。この経験を生かし、直近では本番同様の時間・内容で訓練を積み重ねる。時松リーダーは「最適な工法や加工順序を選択できるかで勝負が分かれるため、引き出しを増やしている」と最後の追い込みをかける。
構造物鉄工は今大会を最後に国際大会の種目から外れることが示唆されている。天野選手は「自分の持っているものを出し切る」と意欲満々。「金メダルを取れるよう頑張る」と有終の美を飾る。(名古屋・川口拓洋)
【構造物鉄工】 図面に基づき軟鋼やステンレス、アルミニウムなどの金属材料を穴開け・切断・組み立て・溶接し、橋や建物などの構造物を作る。計測する場所は公開されないが、外観や寸法の精度を競う。材料を溶断する装置や半自動・TIG(ティグ)溶接機、プレス機械など工作機械の使用が可能。これらの熟練度も試される。競技時間は4日間で計22時間あるが、時間との闘いの中で精度を追求する、きびしい戦いが繰り広げられる。