世界市場は2040年3.8兆円…「全固体電池」、残る重要課題
各メーカーが全固体電池の小型化や耐熱性向上への取り組みを本格化してきた中、硫化物系の全固体電池を手がけるマクセルは一部製品で量産にこぎつけた。「(性能向上により)顧客の反応が変わってきた」と、マクセル新事業統括本部の山田将之担当本部長は手応えを感じている。
富士経済(東京都中央区)が2022年に実施した調査では、全固体電池の世界市場は40年には21年比約1072倍の3兆8605億円に拡大すると予測した。酸化物系は40年に1兆2411億円、硫化物系は同年に2兆3762億円に達すると見込む。
市場拡大に大きな期待がかかる全固体電池だが、容量や高温への対応以外にも課題は残る。一つは価格の問題だ。小型全固体電池の価格は従来の電池と比べて約10倍する場合もある。菱洋エレクトロ(東京都中央区)の半導体・デバイス事業本部コネクティビティ第2グループの亀田明良グループリーダーは「特に民生用の製品(への全固体電池の搭載は)コストが厳しい」と語る。
加えて、同社は“他社に先駆けて採用することへの心理的な負担も顧客にある”と分析する。
さらにもう一つ、重要となるのが「安全規格や輸送のための規格をつくること」(山田マクセル担当本部長)だ。規格づくりの観点では業界団体もカギを握る。電子情報技術産業協会(JEITA)では、電子部品部会の傘下に全固体電池に関する調査TF(タスクフォース)を設置した。市場や政策、規制、技術などの動向を把握する。
新たな技術が台頭するとき、デファクトスタンダード(事実上の標準)となることや規格づくりに加わることが大きな意味を持つ。
東京都立大学都市環境学部名誉教授の金村聖志TF主査は「安全規格などのほか、全固体電池ならではの規格も必要になる可能性がある」と認識する。TFでは規格化の検討を進める方針。さらに12月には市場や技術に関するセミナーを企業向けに開く予定だ。
懸念材料は海外メーカーの勢いだ。矢野経済研究所(東京都中野区)によると、酸化物系全固体リチウムイオン電池(LiB)では中国LiBメーカーを中心に完全な全固体電池にこだわらず、電解液やゲルポリマーを混合した半固体電池で市場投入を急いでいるようだ。日本勢の「お家芸」と言われた電池で巻き返せるか。スピード感も求められている中、小型全固体電池の行方に注目が集まる。(阿部未沙子が担当しました)
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