「小型全固体電池」が正念場、日本勢は需要を取り込めるか
自動車の電動化が進み全固体電池に注目が集まる中、ウエアラブル端末や産業機器などを搭載先として想定する小さな全固体電池が正念場を迎えている。メーカー各社が小型全固体電池の性能向上に取り組む一方、量産にこぎ着けられた企業はわずか。さらに普及のためには低価格化や規格づくりも必要になる見通しだ。安全性を強みとする全固体電池は市場拡大が見込まれ、海外勢も開発に一段と注力する。日本勢は需要を取り込めるか。
「オンリーワンで世界制覇を目指す」。約10年前から全固体電池の開発に取り組んできたマクセルの中村啓次社長の鼻息は荒い。「当時は数人で始めた。半信半疑になりながら開発をしていた」(新事業統括本部の山田将之担当本部長)が、今ではロボットに使われるエンコーダーなどに搭載されている。
全固体電池は高い性能が期待されており、安全性にも優れているため、将来的に数兆円規模に市場は拡大すると見られている。
だが、「保守的なコメントがある」のが現状だ。菱洋エレクトロ(東京都中央区)は2023年春ごろから海外メーカーの全固体電池の販売を始めた。ヘルスケアから産業機器分野まで幅広い業種に提案しているが、顧客の受け止めは冷静だという。実際、電池を基板にハンダ付けして実装する際には高温に対応する必要があるほか、容量を増やしてほしいなどの要望が顧客から上がるという。
当然、メーカー側もこうした要望があることは認識している。例えば太陽誘電は容量を向上するための取り組みを進めるほか、マクセルは大容量を求める声を踏まえ200ミリアンペア時の円筒形の全固体電池を開発した。6月にはTDKが全固体電池向けの新材料を開発したと発表し、体積当たりのエネルギー密度を向上させた。試作品は25年の出荷を目指す。
ほかにも、FDKは汎用品として使えるように充電特性の向上を図りつつ、特定顧客向けのカスタマイズ(個別対応)品も開発中だ。24年度には従来に比べ広い温度環境下での簡易的な充電方法に対応する電池の開発を目指している。
村田製作所は高温条件下での用途をターゲットとする市場の一つとして想定し、高温動作における酸化物系材料の開発にめどをつけた。量産時期の見通しは未定だが、今後に期待がかかる。
成長市場を確実に取り込もうと、各社は開発に向けて歩みを進めている。