スタートアップ豊饒の地に、愛知が東京一極集中を打破する
愛知県の起業支援が盛んだ。県が10月に国内最大級となるスタートアップ支援拠点「ステーションAi」(名古屋市昭和区)を開設するなど、中部の官民が起業関連の施策を矢継ぎ早に打ち出している。スタートアップ創出の東京一極集中を打破すべく、創業を後押しする県内の動きを追った。(編集委員・江刈内雅史)
東京一極集中にくさび アジア最大級のステーションAi、10月始動
10月31日の開業に向けて建設が着々と進み、外装が見られるようになったステーションAi。現在は内装仕上げなどをしており、9月までには完工する予定だ。延べ床面積約2万3600平方メートル、鉄骨造7階建ての施設はオフィスやテックラボを備え、スタートアップのみならず、スタートアップとの連携を図る既存の事業会社の入居も受け入れるのが特徴だ。
起業への関心を喚起する「あいち創業館」も内部に設け、11月1日に開館。プロジェクションマッピングや生成人工知能(AI)などの先端的なデジタル技術を活用し、県ゆかりの創業者や経営者の業績を伝える。
さらに、シンガポール国立大学(NUS)のスタートアップ支援施設「ブロック71」が、日本初となる拠点を設置する。ブロック71はこれまで1100社以上の支援実績があり、多数の投資家とのネットワークも持つアジア最大級の支援施設。ステーションAi内に置く日本拠点では、NUS発のスタートアップの日本展開のほか、県内スタートアップの東南アジア展開などを支援する予定だ。大村秀章愛知県知事は「数多くの東南アジアのスタートアップがステーションAiに集まることを期待している」と語る。
県は近年、起業に関するノウハウの習得を支援するセミナーや、小中高生が新規事業の立ち上げを体験するワークショップの開催、ステーションAi開設までのつなぎとなるスタートアップ支援拠点「プレステーションAi」(名古屋市中村区)の設置といった起業を促す事業に注力している。7月29日には同施設のかつてのメンバー企業で、小型飛行ロボット(ドローン)の開発や点検・画像データ解析サービスを手がけるLiberawareが、東証グロース市場に新規上場し、イグジット(出口戦略)を成功させた。
さらに24年度は賞金総額1000万円という、国内のビジネスプランコンテストとして最大規模のピッチコンテスト「アイチ・ネクスト・ユニコーン・リーグ」を創設するなど、ステーションAi開設を前に創業支援の取り組みを加速させている。これらの施策により、29年までに国内外からステーションAiに1000社のスタートアップを集めるという目標達成に弾みが付くか注目される。
来年2月「テック・ガラ・ジャパン」開催 中部に新“生態系”
愛知の創業振興では、25年2月開催予定の「テック・ガラ・ジャパン」も関心を集めそうだ。愛知県、名古屋市、中部経済連合会、名古屋大学など259企業・団体・大学で構成する「セントラルジャパン・スタートアップ・エコシステム・コンソーシアム」が主催する。
愛知県や浜松地域のスタートアップのエコシステム(生態系)の形成を進める活動の一環として開くこのイベントは、ステーションAiやナゴヤイノベーターズガレージ(名古屋市中区)などを会場に、国内外の著名なスタートアップや投資家、事業会社を集める計画だ。講演やトークセッション、ブース展示などを企画し、スタートアップ支援の機運を盛り上げる。9月上旬をめどに第1弾情報を公開する予定だ。
プロデューサーを務めるウィズグループ(東京都港区)の奥田浩美社長は、集積する高収益の企業がスタートアップと連携したり、彼らに投資したりすることで「東京を超える新しい勝ち筋が見える」と期待する。
ステーションAiをはじめとした創業支援の施策が、自動車産業を中心に構築してきた強固な産業基盤を生かし、投資家のみならず資金力のある事業会社とスタートアップとの絆をつむぐことが、愛知をスタートアップの豊穣(ほうじょう)の地にするカギと言えそうだ。
イノベーターズガレージ、「挑戦文化」生み出す
愛知県の創業支援施設には、中経連と名古屋市が19年7月に共同で開いた「ナゴヤイノベーターズガレージ」もある。これまで起業家らに作業スペースや、各分野の専門家やメンター(助言者)による支援などを提供し、来場者は延べ14万5485人(4日時点)に上る。
水野明久中経連会長は同ガレージについて「挑戦する精神の旺盛な人が集まる場に成長した」とこれまでを振り返り、「チャレンジする文化を生み出している」と評価する。
5周年となる24年からは中高生向けのアントレプレナーシップ(起業家精神)教育プログラムも開始。それを受けた高校生が、起業に関して学んだり、ビジネス案の出来を競ったりするイベントを実施するなど、起業意欲を喚起する層を青少年にまで広げている。