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「量子ビット」寿命100倍以上、日立製作所が開発した技術の意義

「量子ビット」寿命100倍以上、日立製作所が開発した技術の意義

日立が開発を進めるシリコン量子コンピューター

ノイズの発生自体を抑制へ

日立製作所量子コンピューターで使う情報の最小単位である「量子ビット」の寿命を従来に比べ100倍以上延ばす技術を開発した。量子ビットを安定化させる「マイクロ波」の照射を工夫することにより、不安定さを引き起こす「ノイズ」の影響を減らし、寿命を延ばすことに成功した。今後、ノイズの発生自体を抑制するなどの改良を進め、量子コンピューターの早期実現を目指していく。(編集委員・小川淳)

日立製作所が17日発表した。研究の一部は内閣府のムーンショット型研究開発制度の助成を受けている。

量子コンピューターではいくつかの方式によって世界中で研究されているが、日立では半導体材料であるシリコンを用いて量子ビットを製作する「シリコン量子コンピューター」に力を入れる。既存のシリコン集積回路の技術が応用できるため、量子ビットの大規模集積化や高い展開性が期待できる。

開発した手法(下図)はマイクロ波の照射を工夫することで量子ビットを安定化

シリコン量子コンピューターでは、格子状に配列した「箱」構造に量子ビットを1個ずつ閉じ込め、その電子のスピンを操作することで、「0」と「1」の状態を制御して、計算をさせる。

ただ、日立の基礎研究センタの土屋龍太主管研究員はシリコンには「そもそもノイズが内蔵されている」と指摘する。原子核自体のスピンなどがノイズとなって、量子ビットの安定性を阻害してしまい、寿命を短くさせ、演算時間が減衰するという課題があった。

日立ではノイズの影響によってスピン軸がぶれた状態で回転している量子ビットに対し、マイクロ波の照射の仕方を工夫し、2方向の回転軸を操作。スピン自体を安定化させることで、ノイズの影響を削減することに成功した。

寿命は従来に比べ100倍以上長い211マイクロ秒(マイクロは100万分の1)まで延ばすことができるのを確認した。今後、さらに1ミリ秒まで寿命を延ばしていく計画で、土屋主管研究員は「ここ1、2年の間に実現したい」と述べる。

寿命を延ばす施策の一つとして、ノイズの少ない「同位体シリコン」を用いることを検討している。土屋主管研究員は「(製造には)非常に特殊な技術が必要になる」と指摘、サンプルを入手して共同研究を進めていく予定だ。

量子ビットの寿命が長くなれば、量子コンピューター特有の計算アルゴリズムのほか、計算の過程で起きる誤りを訂正する「誤り訂正技術」など、実用化に向けて不可欠な機能の実装にもつながっていく。

基礎研究センタの水野弘之主管研究長はシリコン量子コンピューターについて、誤り訂正などを実装し、「2030年に何とか(実用化に)引っかかるくらいのところに持っていきたい」と展望を述べている。


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日刊工業新聞 2024年06月18日

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