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ダイハツ、変革へ第一歩も…苦境続く部品サプライヤーの声

ダイハツ、変革へ第一歩も…苦境続く部品サプライヤーの声

再起を図るダイハツ(大阪府池田市ダイハツ町の本社)

ダイハツ工業が変革への道を歩み出した。8日に新経営方針を発表し、事業領域の軸を軽自動車に置くことを決めた。小型車は、国内外で親会社のトヨタ自動車が開発から認証まで、製造に関する一連の流れに責任を持つ体制に変更する。ダイハツはトヨタと足並みをそろえることで、良品廉価なモノづくりを実現する強みを失わず、顧客の信頼回復や再発防止を図る。(名古屋・川口拓洋、大阪・田井茂)

「もう一度ダイハツがあって良かったと言ってもらえるように会社を再生する」―。都内で開いた事業方針説明会で井上雅宏社長はこう思いの丈をぶつけた。3月1日に就任し、工場や販売現場を訪問した井上社長。数カ月間納車ができない中で、ダイハツ車の生産再開を待つ顧客や、車検に対応する店舗スタッフに触れ、「ダイハツを再生し再出発するためにはどうすればいいのか日々悩み抜いた」と語った。

ダイハツが選択したのは単独でのビジネスモデルの確立ではなく、トヨタグループの一員として役割や責任を明確化すること。軽自動車はグループでは唯一ダイハツが手がけている領域であり、良品廉価なモノづくりに磨きをかけ、開発から生産、販売に至るまで同社が責任を持つ。

一方、小型車の生産はトヨタからの伴走支援を受ける。特に一連の認証不正では新興国向けの小型車の開発負担が重くのしかかったことが要因。トヨタが開発から認証までの責任を持ち、ダイハツが委託を受け実際の開発を行う形態に切り替える。

トヨタの中嶋裕樹副社長は「ダイハツの事業形態は変わらない。1番の変革はダイハツのOEM(相手先ブランド)供給をトヨタからの委託に切り替える」と説明する。OEMとは製造先がすべての責任を負うことを示す。「これまでトヨタはダイハツの車を供給してもらうだけだった」という。

新興国の小型車開発でダイハツの負担が増した要因は、各国での法規の変化に車種ごとに対応しなければならない点だ。直近でダイハツ車の仕向け地別では約70カ国に及ぶ。グローバルで長年事業を展開しているトヨタがこの法規の変化を補うことで、ダイハツの負担を軽減。顧客の意見を丁寧に吸い上げ車づくりに生かすというダイハツの強みを伸ばす。中嶋副社長は「ドライな関係であったOEM供給からお互いが学び合いウェットな関係になる」と表現する。

より“ウェット”(つながりが強い)な関係に向け、体制も整備する。5月1日付で、17年からトヨタとダイハツの事業の橋渡しを担ってきた「新興国小型車カンパニー」を廃止し、トヨタの小型車を担う「トヨタコンパクトカーカンパニー」への一部機能移管する。タイのトヨタ開発拠点である「トヨタダイハツエンジニアリングアンドマニュファクチャリング」や「トヨタモーターアジアパシフィック」は6月をめどにアジア地域本社として社名を「トヨタモーターアジア」に変更する。

ダイハツの内部でも体制を再構築。企業統治(ガバナンス)の強化も重要項目の一つだ。まずはモノづくり強化のため、認証部門を増強する。車開発本部から品質統括本部下に移し、正しく認証業務を行えるよう環境と独立性を担保した。またリスクや法令順守(コンプライアンス)を扱う「GRC推進部」と、国土交通省に2月に提出した再発防止策をとりまとめた「三つの誓い」を推進する部門も4月から新設。短期開発は競争力向上には不可欠だが、しわ寄せが後工程に発生するのを防止するため、開発・製造の両面で異常を知らせる“アンドン”を引く体制を事業の進捗(しんちょく)ごとに整備する。

不正の撲滅に向け風土改革も実施し、縦のコミュニケーションを活発化する。業務量が増え、人材交流が滞り、上司に素直に物が言えなくなってしまったという不正の一因になった要素を取り除く。

部品サプライヤー苦境続く 産業機械開拓、生き残り模索

消費者や取引先の信頼を取り戻せるか

ダイハツ工業は2月12日以降、国土交通省が出荷停止を解除した車種から部分的に生産を再開しているが、部品サプライヤーの苦境は続く。ダイハツが35%出資するメタルアートの友岡正明社長は「1月はダイハツからの国内の仕事が完全にストップし、情報も入ってこなかった」と明かす。主力は鍛造部品で売上高の約30%をダイハツ向けで占め、経営への影響が大きい。「企業風土を変えるのが一番難しいと思う。開発プロセスの見直しや技術評価の人員適正化をしっかりやっていただきたい」と「親会社」の再生を見守る。自動車の電動化の流れを受け車載モーター部品に参入したが、ダイハツ車の電動車開発が不正で止まり、もくろみは狂った。「ダイハツに納めたかったが、遅れそうだ。産業機械の用途を開拓し、経験を積みたい」と、自動車のみに頼らず生き残る道を手探りする。

「前年に比べると4月は20%、5月も40%にとどまりそうだ」。関西の有力サプライヤーは、ダイハツが出荷を再開しても小規模で部品生産は低水準が続くと困惑する。不正が長期に報じられ、「ダイハツ車を悪いとは思わないが、イメージ回復は難しいだろう」と心配する。ダイハツ向けの売上高比率は数%で、ほかの自動車メーカーから仕事が増える場合にも備える。新たな経営体制には「トヨタから社長が来たので意外感はない。初めの印象よりも、どのような経営をするのかみていきたい」と、再生に向けた実行を注視する考えだ。

日刊工業新聞 2024年04月09日

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