「世界でもいち早く電動化が進んでいる建設現場を再現」…日立建機が開設した研究施設の全容
日立建機が建設現場のゼロエミッション(排出ゼロ)化への取り組みを加速する。その中心となるのは、千葉県市川市にこのほど開設した研究施設「ゼロ・エミッション・EVラボ」だ。電動建設機械の開発に加え、顧客やパートナー企業とともにビジネスモデルの創出を目指す。国内での電動建機の普及とゼロエミッション現場の実現に向けた取り組みとしても期待される。(編集委員・嶋田歩)
「世界でもいち早く電動化が進んでいるノルウェー・オスロの建設現場を再現した」。日立建機の先崎正文社長はEVラボのコンセプトを説明する。敷地面積1654平方メートルで、デモエリアには日立建機の5トン、8トン、13トン電動ショベルに加え、可搬式充電設備や電動クローラー運搬車、小型EV(電気自動車)トラックを設置した。
充電設備には九州電力との共同開発品やオランダ・アルフェンの製品、電動運搬車に諸岡(茨城県龍ケ崎市)製、EVトラックはいすゞ自動車製をそろえる。電動ショベル単体でなく、関連機器や周辺装置と合わせて建設現場で“使える”電動化環境を共同研究で創り上げ、ビジネスモデルを提案するのが同施設の目的だ。
例えばディーゼルエンジンの既存ショベルは数日間連続で動かせるのに対して、電動ショベルの稼働時間は現状、フル充電で4・5時間にとどまる。電動ショベルのパワーが落ちたときに効率的な継ぎ足し充電ができないと、電動ショベルは使い勝手の悪い高価格機になってしまう。電動ショベルの価格は、おおむねディーゼルエンジンショベルの数倍高いとされる。
一方、電動ショベルなどの電動建機が持つ排ガスゼロや静音性は魅力だ。中村和則執行役常務は「価格比較や経済性だけでなく、企業イメージやカーボンニュートラルの目標実現に向けて電動建機を試したい顧客も増えている」と手応えを示す。それだけに、電動建機をいかに現場で使いやすくできるかが普及とゼロエミッション化のカギとなる。
日立建機の調査によると、世界の建機市場で電動化の比率は1%程度。相対的に電動建機が普及する欧州や中国は政府や行政機関による補助金などの支援があり、北欧だと水力発電で電気料金が安い恩恵もある。日本は電気料金が高く、電動ショベルの運用費用でも割安感は乏しい。
建機業界にはこうした実情を踏まえ、国土交通省や経済産業省、環境省などに支援措置を要望すべきだとの声も多い。日本建設機械工業会の山本明会長(コベルコ建機社長)は「電動ショベルの普及には1社だけの努力では限界がある。関連ユーザー団体などと一緒に行政に必要な支援策を要望すべきだ」と指摘する。今後、ユーザーなど関連企業・団体と一体での取り組みとして波及するかが注目される。
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