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φ6mm 以下に特化したばらつきのない工具で精密微細加工シーンを支える

日進工具
製品の小型化・高機能化に伴い、金型や部品の精密微細加工で重要性が増す小径工具。日進工具は小径エンドミルの分野で他社にない多彩な製品をラインナップし、ユーザーの期待に応えている。小径エンドミル製造の課題である「ばらつき」を、独自設計の工具研削盤やインラインの工具測定システムで解決。製品開発では、①工具設計・試作、②性能検証、③要素技術開発で役割を分担し、PDCA サイクルを円滑に回すことで開発期間の短縮を図っている。近年は5 軸加工機で用いる小径エンドミルの開発に注力しており、5 軸機の強みを活かしてより精度良く、高能率に加工できる方法も模索している。被加工材の高硬度化や要求精度の高まりで多様化するニーズにどう応えるのか。製品開発を担う4 人の技術者に話を聞いた。

─御社の超硬小径エンドミルの強みや他社との差別化ポイントを教えてください

遠藤 当社の小径エンドミルはφ6mm 以下に特化しており、精密微細加工の分野に強いという特徴があります。φ6mm 以下に特化している分、さまざまな太さの製品をラインナップする他社に比べて小径エンドミルに対する細かな技術を蓄積している点が差別化につながっています。また、当社は超硬工具が主力製品ではありますが、cBN(立方晶窒化ホウ素)やPCD(多結晶ダイヤモンド)を素材とする工具も扱っていて、これら超硬より硬い素材の研削技術も確立し、製品化してきました。

─φ6mm 以下に特化しているとのことですが、取り扱っている工具の最小径は?

遠藤 2005 年にφ0.01mm の1 枚刃超硬マイクロエンドミル「マイクロエッジ」を発売した実績があります。当時はさほど需要はありませんでしたが、部品の小型化が進む中で使う場面は増えていると思います。実際に、φ0.03mm やφ0.05mmのエンドミルを使って加工されているお客様の話を聞くようになりました。

─小径エンドミルは品質を担保するのも難しそうです

遠藤 その通りです。当社の「ものづくり行動指針」には、「安定した、バラツキの無い、高性能な製品を提供する!」と掲げられていて、お客様のニーズもまさにこの点にあります。本指針をすべての製品に対して実行するために、生産においては、独自に設計した工具研削盤「TGM」や専用の工具研削プログラムを使用し、かつ生産中に 工具寸法を自動で測定することで工具の安定性と高精度を両立させています。「オレンジFC 活動」と称する改善活動を通じて、現場の課題解決やアップデートにも取り組んでいます。また、開発においても精密微細加工向け高速マシニングセンタ(MC)を複数台保有し、開発した工具を用いた加工技術の提案を行っています。

切削検証のために精密微細加工向け高速マシニング センタを複数台保有

─自動測定はどのようなシステムですか

渡辺 画像やレーザで工具の寸法を測定するシステムです。量産しながらリアルタイムに測定し、得られた測定データを機械側にフィードバックすることで、安定した品質の製品をコンスタントに生産できます。工場内は温度管理を徹底していますが、わずかな温度変化でも工具寸法が変化してしまうので、それを測定システムでカバーしながら生産するイメージです。

高硬度材や鏡面加工で力を発揮

─御社製品の代名詞でもある「無限コーティングプレミアムPlus」シリーズの特徴や使用するメリットを教えてください

鈴木 無限コーティングプレミアムPlus は60~70HRC の高硬度材加工に特化したコーティングです。高硬度材の加工は、一般的な硬さの被削材に比べて切削時の熱や摩擦力、衝撃力が大きくなります。そこで、無限コーティングプレミアムPlus では3 種の皮膜構造を組み合わせることで、切削熱や摩擦、衝撃に対する強さ、はがれにくさを実現しました。また、本コーティングを施した製品全体の特徴として、従来製品よりも高精度化している点が挙げられます。ボールエンドミルやラジアスエンドミルではR 精度を、また、すべての製品で刃径の公差を従来製品よりも狭く設定し、高い耐摩耗性と合わせて高硬度材の高精度な加工を可能にしました。高硬度材を用いた金型の直彫り加工をターゲットにしています。

─御社のcBN 工具の特徴は?

郡川 cBN は超硬合金の約3 倍の硬さをもち、耐熱性にも優れた素材です。半面、じん性が低く、負荷の高い荒加工には向かないという特性があります。これらの特性から当社のcBN 工具は特に高硬度材の仕上げ加工で効果を発揮し、長時間、高精度、高品質に加工できる製品となっています。工具形状としては、スクエアエンドミル、ボールエンドミル、ラジアスエンドミルと用途別に11型番を揃えており、さまざまなシーンで活用が可能です。

─いつからある製品なのでしょうか

郡川 最初に製品化したのは約20 年前です。当切削検証のために精密微細加工向け高速マシニングセンタを複数台保有時、cBN 工具としてはインサート式や太い径のろう付け式のエンドミルしかなく、φ2mm 以下の小径cBN エンドミルはほぼ市場に存在しませんでした。そうした中、高硬度材への直彫り加工に取り組まれるお客様が増えてきたことにいち早く着目し、小径cBNエンドミルの開発に取り組みました。非常に硬いcBN を研削加工するのは困難を伴いましたが、といしや研削条件を見直すことで製品化にたどり着いたと聞いています。直近では、R0.01~0.05 というμm オーダーの2 枚刃ボールエンドミル「SMB200」を新製品としてラインナップしています。

─ PCD 工具も最近注目されているとか

遠藤 鏡面性の高い加工を実現できるという点が評価されています。たとえば、PCD ボールエンドミルと5 軸加工機を組み合わせれば、円筒内面のレンズアレイを鏡面に仕上げることも可能です。金型の磨き時間短縮や磨きレスに貢献できる製品だと自負しています。

5 軸加工機によるSTAVAX(52HRC)製レンズアレイ の加工事例

五感を使って切削現象を解明

─これらの製品を生み出してきた開発部門について教えてください

渡辺 われわれの所属する開発部は、製品開発と生産技術開発の両方を行っています。開発部内に4 つの課があり、製品開発は「デザイン開発課」、「研究開発課」、「新規事業開発課」の3 つの課で担当し、工場での工具測定や自動化など生産技術の開発は「生産技術課」が担当しています。

─製品開発を行う課が3 つもあるのですね

目のデザイン開発課は、工具の設計・試作を行います。担当者は工具を一から設計し、工具研削盤でさまざまな形状の工具を試作します。当然、研削のためのプログラミングも自ら行います。2 つ目の研究開発課は、試作した工具の評価を行います。当社が保有する精密微細加工向け高速MCでテスト加工を行い、テストワークの形状精度や表面粗さなどを評価・分析して改善に導く役割を担います。3 つ目の新規事業開発課は、恒久的に開発を進めるうえで欠かせない“技術革新”を目 指して要素技術の開発を行っています。たとえば研削以外の工具製作手法を、将来を見据えて研究しています。

─製品開発で大事にしていることは?

渡辺 工具とワークがどのように当たっているのかを、五感を使って感じ取ることを重視しています。最近は機内撮影用の機器や切削動力計、切削シミュレータなどが進化したため、いろいろな情報を収集できるようになりましたが、切削の様子を見、切削音を聞き、削ったワークを触りながら問題解決の糸口を探るという、開発の原点を忘れてはいけないと思っています

─工具開発にかかる期間は?

遠藤 ものによりけりです。長いものは1 年近くかかりますし、1 カ月で終わるものもあります。開発期間が限られている製品では、個々の開発メンバーが1 度自分の担当業務を脇に置いて、全員でその製品に注力するケースもあります。臨機応変の開発体制も当社の強みと言えるかもしれません。

─開発部内の人材育成はOJT で行っているのでしょうか

鈴木 そうですね。私の所属する研究開発課の場合、あまり定型の業務がなく、テーマによって評価方法が違います。型にはまった教え方というよりは、先輩に「どこに注意するか」を教えてもらい、比較的簡単な業務から始めて徐々に慣れてくる感じです。

渡辺 私の若い頃は勉強する時間を与えられていました。今は、実際の業務の中で学びながら結果を出さないといけないから若手は大変です。鈴木君も郡川君も本当によくやっていると思います。

5 軸加工機向け製品に注力

─開発部内で力を入れている最近の開発テーマを教えてください

鈴木 5 軸加工機用の工具開発に力を入れています。5 軸機自体の高精度化が進み、当社のお客様からも「導入した」との声を聞くようになりました。5 軸機は3 軸機と比べて工具の突出し量を短くでき、工具剛性を高められるという特性がありますが、当社のラインナップには5 軸機の特性を活かせるエンドミルが少ないのが現状です。ここをカバーできる、5 軸機ならではの特性を活かせる工具の開発を進めています。

─ 5 軸機の特性を活かすには、どんなエンドミルが必要になるのでしょうか

鈴木 3 軸機では工具とワークの触れるカットポイント(切削点)として、主に工具先端が使われます。一方、5 軸機ではカットポイントを3 軸機より自由に選ぶことができるので、工具先端以外をカットポイントにしたときに加工性能を出せる刃形状が求められると思います。

遠藤 干渉回避のしやすい5 軸機の特性を活かすなら、刃長を短くした、高剛性な工具も必要になります。工具剛性を高められれば、高能率にも、高精度にも加工しやすくなるからです。また、5軸機では加工の選択肢が増える分、適切な切削条件やツールパスの選定に時間がかかります。お客様が時間をかけずに条件やツールパスを選定できるような技術データの構築も求められると思います。

潜在的なニーズを掘り起こす

─小径エンドミルに特化して製品展開をしてきた御社ですが、今後はどんな工具が求められると思いますか

郡川 より付加価値の高い製品が求められると思います。ポイントは高精度化と高能率化です。最近は、電気自動車や燃料電池車が徐々に広まり、金型にはより高精度な加工が求められるとお客様から伺っています。また、物価や光熱費の高騰を背景に、コスト削減のニーズも高まっています。これらに対応するためにも長時間、高精度、高品質に安定して加工できる工具や長時間、高能率に加工できる工具が求められると思います。私自身はcBN 工具の開発に携わっているので、その中 で付加価値を追求していきたいと考えています。

─昨今は工場のデジタル化が進んでいます。工具メーカーとしての提案は?

郡川 3 年ほど前から工具ケースに印刷されたQR コードを読み込むことで、切削条件やサンプルの加工データなどをお客様がすぐに確認できるサービスを提供しています。今は一部の製品だけですが、今後より多くの製品に広げ、得られる情報も充実させていきます。

─最後に、今後の製品開発で大切にしていく姿勢を聞かせてください

遠藤 4 つあります。1 つ目はシーズからニーズを掘り出すこと。お客様が気付いていないニーズと当社の保有技術を合致させて、お客様の本当に求める製品を実現します。2 つ目はものづくり行動指針に基づいた工具設計やお客様への情報提供を行うこと。3 つ目として、自動化ニーズに対応した工具設計、技術データの提供もさらに発展していく必要があります。4 つ目は、社是である「明るく、楽しく、創造をしよう。」をモットーに、若手からベテランまで、時には冗談も言い合いながら、全社一丸で取り組んでいくことです。これらを大切にしながら、当社が掲げる「『つくる』の先をつくる」の実現を目指していければと思います。

左から順に開発グループ長 兼 デザイン開発課 課長 遠藤孝政氏、開発グループ 新規事業開発課 課長 渡辺健志氏、開発グループ 研究開発課 主任 鈴木岳史氏、開発グループ デザイン開発課 主任補 郡川聖弥氏

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