顧客ニーズを細かく把握し 自社技術の強みを活かした 最適な工作機械を提案
ニイガタマシンテクノは100 年以上の歴史をもつ老舗の工作機械メーカー。主力の横形マシニングセンタ(MC)は剛性を重視した機械構造が特徴で、建設機械部品を中心とする高硬度かつ大物の部品加工で数多くの導入実績がある。高剛性でありながら多彩な加工が可能な旋削機能付き横形MC や5軸横形MC をラインナップするなど、工程集約のニーズにも対応している。そんな同社の隠れた強みと言えるのがカスタマイズ対応だ。顧客の要望や困りごとを丁寧に聞き取り、自社の工作機械の特徴を踏まえたうえで最適な解決策を提案する。顧客としっかりした信頼関係を築くことが、次の受注につながる。同社でカスタマイズを担当する技術部機械設計課の4 人の設計担当者に話を聞いた。
─横形MC が主力ですが、立形を手掛けず横形に特化しているのはなぜでしょうか
阿部 当社は1895 年に創業した新潟鐵工所の工作機械事業が母体です。万能フライス盤やNCフライス盤を製作する中で、1972 年に日本初のコラム移動型の横形MC「HN シリーズ」を開発し、これが当社にとって最初のMC となりました。立形MC から入って横形MC に広げるケースもありますが、当社の場合は最初が横形だったのでその流れを引き継いでいます。当社の規模ではそれほど数多くの機械を提供できるわけではありませんので、長い付き合いのお客様の細かな要望に応えるためにも、横形に特化してきたのだと思います。
─横形MC の優位な点は?
吉田 ワークに横からアクセスできるため、立形MCより大物のワークに対応しやすく、フレキシビリティが高いのが特徴です。自動化や無人化のためのシステムも構築しやすく、1976 年にはMC の夜間無人運転システムを開発した歴史があります。
─76 年とはずいぶん早いですね。どんなシステムだったのでしょうか
阿部 今で言う加工監視システムで、機械をモニタリングして刃具の折損時に機械を止める機能があり、新潟鐵工所時代のさまざまな部署の協力を得ながらつくり上げたと聞いています。当時の新潟鐵工所には造船や車両、原動機などの製造部門があり、工作機械の開発に他部署の技術を活かすことができました。それら他部署からの「こんな工作機械を開発できないか」との要望に応えるのも工作機械部門の役目でした。
高剛性を実現する機械構造
─社内のモノづくりで使う工作機械を、社内の協力を得てつくっていたのですね。では、御社のMC の特徴は?
高橋 機械剛性の高さがまず挙げられます。主力のHNシリーズは72 年の開発時から一貫して「角スライド」を採用しており、リニアガイドを用いたスピード重視の機構と比べて機械がたわみにくく、重切削での加工に適しています。角スライドは面で接触しているので、点や線で接触しているリニアガイドよりも振動が伝わりにくい点が評価されています。一方、機械を速く動かしたいというニーズに対して面接触は不利な部分もあるので、面接触でもスピードアップできるよう取り組んでいるところです。
─ほかにはどんな特徴がありますか?
高橋 当社はリニアガイドを使った「SPN/Nシリーズ」もラインナップしていますが、こちらも剛性を重視して「BOX in BOX(2 重ボックス構造)」を採用しています。機械は重くなるほど剛性は上がりますが、動きは遅くなります。そこで、主軸の載るサドルを軽くし、外側の強固なボックスでサドルの動きをサポートすることで、剛性を維持しつつスピードアップを図っています。また、SPN/N シリーズは「3 点支持ベース」も特徴です。3 点で支えることで機械の傾きを防止し、長期間に渡って精度を安定させることが可能になります。
阿部 加えて、お客様の特殊仕様への要望にも親身な対応を心掛けてきました。それが、お客様との信頼関係を築くことなり、次の相談や受注につながっています。大手さんのように多くの機械を提供できない分、そういう部分でニイガタマシンテクノとしての特徴を出していければと思っています。
─カスタマイズは機械設計課で対応を?
阿部 はい。われわれ4 人はいずれもカスタマイズを担当しています。新機種を開発するメンバーも同じ課にいますので、われわれがお客様から聞き取った要望を開発担当者に伝えることで、特殊仕様を前提としたカスタマイズしやすい設計にしてもらうなど連携しながら業務を進めています。
複合機・5 軸機もラインナップ
─主要ラインナップを教えてください
伊庭 先ほど紹介した角スライドのHN シリーズ「HN-BAR」シリーズとリニアガイドのSPN/N シリーズ、大きく分けてこの2 つをラインナップしています。前者は大きい取り代でバリバリ削りたい場合、後者は小さな取り代で速く加工したい場合と、加工シーンによって使い分けが可能です。HN シリーズは主軸の形態が3 パターンあり、普通タイプの主軸とクイルが横に突き出す「バーセンタ」タイプの「HN-BAR」シリーズ、さらに「フェーシングセンタ」タイプの「HN-FC」シリーズを選ぶことができます。「HN-FC」には旋削機能が搭載されており、旋削バイトを装着した面板を回転させることでワークの外周や内径を削る加工が可能です。これは旋盤で回転させることの難しい異形ワークの旋削加工に適しています。
─5 軸加工機もありますね
伊庭 テーブルをゆりかごのように傾けるテーブルチルト型の「HN-5X」をラインナップしています。5 軸加工機の中には、主軸を傾ける主軸チルト型もありますが、当社では5 軸機でも剛性を重視してテーブルチルト型を採用しました。HN-5Xはパレットサイズを徐々に拡大しており、現在500 角、630 角、800 角タイプを用意しています。
─御社の工作機械はどんな分野のユーザーが多いのでしょうか
阿部 建設機械メーカーや建機部品を手掛けるメーカーで数多くの実績があります。ワークは建機のエンジンブロックやミッション部品、ブレーカなど大物が多く、ダクタイル鋳鉄や鋳鋼のような硬い素材が使われているので、剛性のある当社の機械がマッチしているのだろうと思います。一方で、1 つの業界にあまり集中すると、その業界の景気に左右されてしまうので、新たな分野の顧客を開拓するのが今後の課題です。たとえば、HN-5X は航空機部品を加工するニーズを取り込もうと開発しました。結果、現状では航空機部品加工より、工程集約を目的に導入されるお客様が多いようです。
─顧客ニーズとして、工程集約が1 つのキーワードになるのでしょうか
阿部 そうですね。人手が足りないので、極力人手をかけたくない、段取り時間を減らしたいといった声をよく聞きます。当社は主軸頭にターニング用スライド機構をもつ複合加工機「BFN シリーズ」もラインナップしていますので、HN-5Xと合わせて工程集約を提案しています。
─段取り作業をサポートするシステムも提案していますね
吉田 3 次元スキャナを利用した非接触の鋳物外観測定システム「e-na(イーナ)」ですね。これはワークの取り代が正常範囲内か、取り付け間違いがないかなどを加工前に測定・判定ができるもので、ヒューマンエラーによる加工ミスを防止する目的で開発しました。これから市場に投入し、ユーザーの意見を聞きながら改良していければと思っているところです。
─工程集約以外のニーズは?
吉田 国内のお客様は総じて環境問題への関心が高いですね。当社でも省エネのための「ニイガタ・グリーン・パッケージ」をオプションで提供していますが、国内のお客様はほぼすべて省エネ仕様を選ばれます。また、射出成形機の部品加工を手掛ける中国のお客様からは、より大型なMC への要望が高まっています。
顧客とのコミュニケーションを重視
─工作機械の開発・設計ではどんなことを大切にしていますか。また、それをどのように次の世代に伝えていますか
阿部 お客様とのコミュニケーションを重視しています。特にわれわれカスタマイズを担当する設計者には、お客様が何をやろうとしているのかを聞き出す力、いわゆるコミュニケーション能力が重要です。そこで、お客様との打合せに新人を同席させ、慣れたら1 人で打合せに行ってもらうといったOJT を実施しています。昔ながらのやり方ですが、人とのコミュニケーションがきちんととれるということが、カスタマイズ業務を担当す る者にとっては重要なのです。これは設計者だけでなく、営業担当者にも言えることです。
吉田 カスタマイズ業務では、当社の特徴である高剛性や高生産性を踏まえたうえで、お客様のニーズに寄り添うことが重要です。これには、自社の技術に対する理解が欠かせません。そこで新人には、お客様への自社技術のプレゼンや、工場見学に来たお客様への説明を担当させるようにしています。それができるようになれば、お客様との打合せでも同じことができるはずです。お客様から「もう少し、こうなりませんか?」と言われたときに、適切な対応を判断できるようになるまでが、新人の一番苦労するところです。「当社の既存技術を使えば、やり方は違っても目的を達成できます」と提案できるようになれば、さらにいいのですが。
─ベテラン2 人の話を聞いて、高橋さんはどう思いましたか
高橋 私は入社してずっと新機種の開発を担当していて、カスタマイズ担当になったのは2023 年4 月からなんです。だから、これまではどちらかと言えば、社内の生産部門とのやり取りに注力してきました。生産部門との綿密なやり取りが、製品価格を抑え、納期を短縮するために必須だったからです。お客様との交渉は今後の課題ですね。
─伊庭さんはいかがですか
伊庭 コミュニケーション能力はまだまだ足りないかな、と。私は入社して設計に配属されたのですが、お客様との交渉を少し経験したところで品質保証の部門に異動になり、戻ってきて5 年ほどなので、これからさらに頑張っていかないとと思っています。あと、私は品質保証部門にいた関係で、機械に不具合が起きたときに調査に行くこともありますが、その際は、「このように対応します」と方針だけでも早めに伝えるなど、 スピード感をもった真摯な対応を心掛けています。
AI にできないことやる
─高橋さんと伊庭さんは、将来どんな工作機械が求められると思いますか
高橋 一般的に言われているように、省人化や自動化が進んでいくと予想しています。それを踏まえて、「作業を楽にしたい」というお客様の要望を実現できる機能、たとえば、クーラントタンクの底にたまる細かな切りくずを自動で処理するような機能を開発できればいいなと思います。
伊庭 私も省人化やメンテナンスフリーがポイントになると思います。メンテナンスフリーの面でわれわれメーカーに何ができるのかを考えると、「壊れない」、「止まらない」機械をつくることが最も早道です。そのためにも、現状の不具合を1つひとつ克服して、製品をより良くしていければと思っています。
─工作機械メーカーとして長い歴史をもつ御社ですが、今後どんな姿勢で開発に臨みますか
阿部 生産財の開発では、お客様の意向を踏まえることが何より大切です。お客様が何に困っていて、何を直したいのか。それを突き詰めながら開発に取り組んでいきます。
吉田 近い将来、AI の発達で工作機械を選ぶときにAI の意見を参考にするお客様が出てくるかもしれません。でも、それだけで本当にいいのか、と。やはり、お客様との話合いの中から良い製品を生み出していく姿勢を、当社は大事にしたい。「それこそ、ニイガタマシンテクノだ」と言ってもらえるモノづくりを続けていきたいと思います。