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生活実用性重視「250」投入…トヨタ「ランクル」群戦略、背景に豊田会長の問題提起

生活実用性重視「250」投入…トヨタ「ランクル」群戦略、背景に豊田会長の問題提起

悪路を走破する「ランドクルーザー250」

トヨタ自動車がスポーツ多目的車(SUV)「ランドクルーザー(ランクル)」で「群戦略」を本格的に始めた。このほど新型車「250シリーズ」を発売。悪路走破性というランクルの“DNA”は共通にしつつ、高級モデルの「300」、生活実用性を重視した「250」、コアユーザー向け「70」の三つの車型をそろえた。同じ車名でもそれぞれに個性を持たせ、顧客のニーズに細やかに対応しながらブランド価値を高める。(名古屋・川口拓洋)

群戦略は旗艦車種「クラウン」などトヨタの代表的な車名で加速している。複数のパワートレーン(駆動装置)や車型を用意し、シリーズとしての一貫性を持たせながら顧客の多様な要求に応える。ランクルでも「250」の発売により、2021年8月に発売した「300」、23年11月に国内再々販となった「70」と合わせてラインアップがそろった形だ。

トヨタがランクルを「群」として整理した背景には、当時社長だった豊田章男会長から「高級・豪華な方向にシフトし“ランクルらしさ”が埋もれていないか」との問題提起があったという。特に生活実用モデルであったはずのランクル「プラド」はこの傾向が強かった。そこでプラドのモデルチェンジではなく、新たな実用モデルである「250」の開発に着手した。森津圭太チーフエンジニア(CE)は「ランクルを原点回帰させるため、車両をゼロから作り直した」と語る。

森津CEによるとランクルを構成する大きな要素は三つ。一つ目は世界中の道を走り込んできた「世界基準」の車ということ。二つ目は生活を支える車であり、ベースはあくまでもオフロード。三つ目はランクルの品質や耐久性がグローバルにおけるトヨタブランドの信頼につながっていることだ。「250」でも岩や斜面、川なども乗り越えられる悪路走破性をベースに扱いやすさを付加。本来の姿を追求した。

生活実用性を際立たせた「250」を発売することで、最新技術を導入し高級志向にも対応する「300」や、業務用途でも活用でき耐久性・修理性・カスタマイズ性が高くコアなファンを獲得する「70」の存在も際立つことになる。森津CEは「ランクルは役割と使命が明確な車。お客さまが求められるニーズに向き合った結果、『群』になった」と語る。

ランクルは「トヨタBJ型」の名称で1951年に誕生。現在は約170カ国で使用され、2024年2月までの累計販売台数は1151万台に上る。地域によってはトヨタよりも「ランクル」の方が知名度があるほどだ。

24年に73周年を迎えるランクルだが、一つの目標として定めるのが100周年。森津CEは「『どこへでも行き、生きて帰ってこられるクルマ』を着実に継承していく」とブレない方針を示す。その上で「ランクルらしいマルチパスウェイ(全方位戦略、地域ごとの最適なクルマや駆動装置の提供)も当然考慮している」と次なる進化を見据える。


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日刊工業新聞 2024年4月24日

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