繊維業界が資源循環を加速、アップサイクルで大量生産・廃棄を止められるか
クラボウが先行、端材回収アップサイクル
繊維製品の資源循環が加速している。2017年から繊維製品のアップサイクルシステム「ループラス」を展開するクラボウが先行し、アパレル関連企業のほか、自治体やスポーツチームなどとの連携が進展。活動の裾野が広がっているが、そのほかの繊維メーカー各社も資源循環のための取り組みを強化。業界全体で繊維の廃棄物などを削減し、持続可能な繊維産業を目指す動きが進んでいる。(大阪・岩崎左恵)
繊維製品の生産工程での裁断では、繊維の端材が多く発生する。端材などのロスを少なくしたいという考えから、業界に先駆けてクラボウはループラスを開発。回収された端材は安城工場(愛知県安城市)で独自の反毛技術を用いて綿にし、バージン綿と混ぜ合わせて糸や生地を生産する。小林靖弘繊維事業部繊維素材部長は「フル生産状態だ」と話す。
資源循環のニーズは高まり、さまざまな業界でループラスの活用が広がっている。安城市やプロバスケットボールチーム「シーホース三河」(愛知県刈谷市)、安城スタイル(同安城市)と共同で、シーホース三河のTシャツやタオルなどの応援グッズの回収を23日の試合から始め、再び新しい応援グッズであるスポーツタオルにアップサイクルする。アイテムの選別や不要な付属品の除去は安城スタイルがサポートし、安城市の社会福祉法人が運営する福祉施設が担う。日本航空(JAL)は、廃棄物を減らし資源循環型社会の実現に貢献する目的でループラスを活用。使わなくなった機内ブランケットを用いて、衣類や雑貨にアップサイクルしている。
現在は特定の企業と1対1で対応することが多い。「取り組みを広げるためには、小回りがきく個社同士で進めていき、流れを作る」(小林部長)と、スピード感を持って製品化し、普及させることに力を入れる。
ただ課題も残る。「家庭から廃棄される古着の取り扱いが難しい」(同)という。再資源化にコストがかかるが、最終製品のコストアップは受け入れられにくい。加えて最終製品にするためには、生地を構成する素材の明確な混率を表示する必要がある。縫製工場などから出る端材は、生地を構成する素材の混率が明確で数量も多く出るが、古着の場合は素材の混率がさまざまで、数量も安定しない。そのため古着選別のための新たな技術も必要になる。
裁断くず・古着、再び糸に
シキボウも不要になった繊維廃棄物などをアップサイクルする取り組み「彩生(さいせい)」に力を入れている。21年に彩生の仕組みを作り、縫製時の裁断くずや古着などをあらためて糸にして、製品を製造している。シキボウ子会社の新内外綿(大阪市中央区)の生産子会社、ナイガイテキスタイル(岐阜県海津市)が反毛設備を用いて、裁断くずや古着などを反毛して綿を製造し、バージン綿を混ぜて糸に製造する。彩生もアパレルメーカーなどに広がっており、年々採用する企業が増えているという。
22、23年には、音楽イベントで着なくなったTシャツを回収する取り組みも行った。イベントの来場者だけでなく、出演したアーティストのTシャツも回収し、再びTシャツへアップサイクルする。再生したTシャツにはアーティストが着たものも入っており、価値も向上する。
古着のリサイクルでは、自動車の内装材などに使われる不織布製品に資源循環を強化する事例もある。ニッケ子会社のエフアンドエイノンウーブンズ(大阪市中央区)は古着を再資源化した反毛繊維の増産に乗り出す。
25年に石岡工場(茨城県石岡市)に古着のボタンやジッパーなどの異物を自動除去する設備を導入し、反毛繊維の生産量を原状比約10倍に引き上げる。国内で廃棄される古着の約40%は関東圏から出るとされており、配送コスト削減などを狙い、石岡工場で反毛繊維を生産する計画だ。
経済産業省は23年度、単独企業だけでは解決が難しいとして「繊維製品における資源循環システム検討会」を発足し、方向性を報告書にまとめている。繊維製品は大量生産から大量消費、大量廃棄が課題だったが、業界全体で資源循環に力を入れ始めた。