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福岡中心部に新たなビル続々…「天神ビッグバン」の現在地

福岡中心部に新たなビル続々…「天神ビッグバン」の現在地

八芳園が福岡市中央区に開設した宴会場「ザ・ケゴ・クラブ」

スマートビル基盤実証 日本感じる宴会場/200席の大食堂

福岡市が主導する連鎖的な再開発事業「天神ビッグバン」により、福岡の中心部で新たなビルが次々と姿を見せている。国家戦略特区制度を活用した航空法の高さ制限の緩和などを背景に、福岡に従来なかった建築物が建ち並び始めた。またハード面にとどまらず、そこで提供される都市機能にも革新が見られる。(西部・三苫能徳)

福岡都心部は福岡空港が近く便利な半面、航空法の高さ制限で収容能力を縦に伸ばしづらい。天神ビッグバンは規制緩和による解決と併せ、老朽化した中小区画を統合し一体的な床面積を確保し、都市機能を先進化する。

天神ビッグバン1号案件として、2021年に竣工したのがオフィスビル「天神ビジネスセンター」。建築主の福岡地所(福岡市博多区)は、ここでパナソニックの電気設備を担うエレクトリックワークス社と協働する。スマートビルの実現に向けた次世代オープンビルプラットフォームを実証中だ。

個別の設備や建物を超えた共通システムを構築し、ビルの機能を効率的に高める。構想では照明や空調、センサーなどのリアルタイムデータを一元的に取得し蓄積。さらにオープン化することで、外部開発者も管理ソフトウエアの開発に参画できる環境を実現する。

福岡地所の担当者は「変わるニーズに対し、短いサイクルでビルの快適さを上げられるようになる」と期待する。実証では3月末まで清掃担当者の位置情報を収集し、ビル内の動線データを活用したアプリケーションなどの開発を目指す。

天神ビッグバンはMICE(研修・報奨旅行・国際会議・展示会)機能の向上を通じた、国際的な存在感アップにもつながる。ここで貢献を目指すのが婚礼や宴会などバンケット事業を手がける八芳園(東京都港区)だ。

3月に、天神で総合宴会場「ザ・ケゴ・クラブ」を開業した。場所は繁華街の中心で400年以上の歴史を持つ警固(けご)神社の境内。22年に竣工した9階建て社務所ビルの最上階に構えた。井上義則社長は「歴史資産をストーリー化し価値にする」と力を込める。

境内を会場にするユニークベニュー(特別な会場)のほか、九州の食材や工芸品など有形無形の文化資産を演出に盛り込む。国際イベントでの実績も生かし、国内外の来場客の感性に訴える。

ターゲットの一つが学会だ。分科会や会議後のパーティー会場として「思い出深い場所で開くことで、再び選ばれる」(井上社長)。賓客にサービスを手配するコンシェルジュも育成する考えだ。

天神に長く本拠地を置く西日本鉄道も機能強化に余念がない。天神ビッグバンでは複数事業に参画するが、旧本社跡で建設中の大型複合ビル「新福岡ビル(仮称)」には本社を戻すほか、地区最大級の食堂を天神で働く人向けに運営する。約200席を擁し、リーズナブルで質の高い食事を提供予定。レジャー目的の来街者も取り込み、昼夜営業する。

西鉄によると、天神地区の勤務者は25年に9万7000人に上る予想で、15年度の4万人から2・4倍に増える。「食と豊かな環境でサポートする場」(林田浩一社長)をつくり、広がるオフィスと“膨らむ胃袋”に対応する。

日刊工業新聞 2024年03月21日

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