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「全固体電池」研究をけん引、大阪公立大学学長が語る特徴と見通し

「全固体電池」研究をけん引、大阪公立大学学長が語る特徴と見通し

全固体電池の構造を示した模型を使って特徴などを説明する辰巳砂学長

安全・長持ち、実用化近づく

電極と電解質がすべて固体の全固体電池は、現在主流のリチウムイオン電池(LiB)に将来的に取って代わるとされ、自動車や宇宙など幅広い分野で注目されている。その理由に安全性やエネルギー密度の高さなどが挙げられ、関連する技術開発が日本をはじめ全世界で進む。長年にわたり全固体電池の研究シーンを引っ張ってきた、大阪公立大学の辰巳砂昌弘学長に特徴や今後の見通しなどを聞いた。(大阪・石宮由紀子)

使用する電解質で全固体電池は、硫化物系と酸化物系の計2種に分類される。LiBなどに比べてエネルギー密度は高く、安全性や寿命などで高い優位性がある。

辰巳砂学長は、硫化物系全固体電池の研究を進めてきた。硫化物系は酸化物系と比べてイオン伝導性が高いほか、柔らかい材料のため電解質の粒と粒の界面が密着しやすく成形性が良い特徴がある。

2023年、トヨタ自動車が27年にも全固体電池を採用した電気自動車(EV)を投入すると発表。これは自動車業界のみならず日本経済全体のエポックメイキングとなった。辰巳砂学長は「車載向けは硫化物系の採用が有力では」と話す。

全固体電池では、正極の中にエネルギーをためる活物質などが混ざっている。そこからリチウムイオンが出て、固体電解質を通り抜けて負極へと移動する。この動きと同時に電子が外側に飛び出して仕事をすることで、電力を得られる。この状態に外から電圧をかけて元に戻す作業が、いわゆる充電だ。ここで充電に時間がかかると、電流を早く流すことはできない。

だが全固体電池は単位面積当たりに蓄えられる量を大きくできる可能性があり、一度の充電で流せる電流を増やすことで充放電のスピード向上が期待できる。単位面積当たりの量は出力密度と言われており、自動車に搭載した全固体電池でこの出力密度が高ければ、「アクセルペダルを踏み込んだ際に、ダーンと(一気に)電流が流れる」(辰巳砂学長)という。

使用する部材をすべて固体にする意義は大きい。「電解液を固体にすることで、安全性や信頼性が増す」と辰巳砂学長は強調する。LiBを放置した後に通電すると、液漏れすることがある。全固体電池はそういった事象が発生しないという。またこのほかにも幅広い温度帯で使用できるなど多様な利点がある。

辰巳砂学長が参加する研究チームは23年、大きな成果を挙げることができた。硫化物系電解質のイオン伝導性を、室温下において従来の研究の最大1万倍に向上する新たな合成法を開発した。エネルギーの源となるリチウムイオンの動きを阻む「イオン伝導性の低さ」は、全固体電池の実用化に向けた最大の障壁と言われている。ここをクリアすることで高い性能を持つ全固体電池の実用化に一歩近づくというわけだ。

辰巳砂学長の研究者人生はガラスの研究から始まり、そこから全固体電池の研究へとつなげてきた。とはいえ全固体電池の開発に着手した当時、実現できるとは考えていなかった。だが新たな素材の出現が追い風になり、全固体電池の開発が一気に進んだという。「ブレークスルーが出てくると、次のものが見える」(同)と今後の研究の加速と市場の拡大に期待を寄せる。


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日刊工業新聞 2024年03月11日

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