「イオン伝導性」最大1万倍の新合成法、大阪公立大が「全固体電池」実用化に弾み
大阪公立大学の研究チームは、全固体電池を実現する有力材料の一つである硫化物系電解質のイオン伝導性を、室温下において従来の研究の最大1万倍に向上する新たな合成法を開発した。エネルギーの源となるリチウムイオンの動きを阻む「イオン伝導性の低さ」は、全固体電池の実用化に向けた最大の障壁。この手法の活用によりボトルネック解消につなげることで、実用化に弾みがつく可能性がある。
全固体電池はリチウムイオン電池などに比べてエネルギー密度や、安全性や寿命などで高い優位性がある。そういった点に着目してトヨタ自動車が2027年にも全固体電池を搭載した電気自動車(EV)を投入するほか、出光興産が固体電解質の実証設備の生産能力の増強や27年の量産を目指すなど企業や研究機関で研究開発が加速。そのカギとなるのがイオン伝導性の向上だ。
高いイオン伝導性の達成には、より高温で熱力学的に安定な結晶構造が必要。大阪府立大学(現大阪公立大)の木村拓哉大学院生(研究当時)や大阪公立大の辰巳砂昌弘学長、林晃敏教授らの研究チームは結晶化において加熱や冷却の温度を制御することで、条件を満たす構造を持つ電解質の作製を目指した。具体的には1分間に約400度Cに上昇させる速度で約280度Cまで電解質を組成する材料を加熱させた後、ステンレス板でこれを挟んで室温まで急冷した。
処理を行った結果、25度Cの室温下において、過去の研究で作製した構造の最大1万倍のイオン伝導性を示し、安定化したことを確かめた。「開発した合成法は、使用した硫化物系以外の電解質にも適用できる」(林教授)という。
成果は米国化学会誌(JACS)電子版に21日掲載された。
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日刊工業新聞 2023年06月22日