「浮体式洋上風力」50万kW級でスタートを…日本、見劣り懸念
自然エネルギー財団(東京都港区、孫正義会長)が浮体式洋上風力発電の普及に向けた提言として、数十基の風車をまとめて稼働させる“商機規模”からのスタートを呼びかけた。技術実証ベースで小規模から始めると導入に弾みがつかず、普及が遅れるためだ。それだけでなく、海外から風車を調達できなくなるリスクもあり、風力発電を日本の巨大エネルギー産業にする道も閉ざされかねない。(編集委員・松木喬)
巨大エネ産業育成、“初めの一歩”重要
自然エネルギー財団は普及の初期段階として、2030―31年に50万キロワット級の浮体式洋上風力発電所2カ所を商業運転させるよう提言した。「浮体式」とは風車が海に浮いている洋上風力発電。深い海に囲まれた日本では風車を海底に固定させる「着床式」の適地が限られており、脱炭素の目標達成には浮体式の普及が欠かせない。だが現在、稼働する浮体式は長崎県・五島列島沖と北九州市沖の2基だけ。着床式を含めても23年末までに稼働した洋上風力は39基にとどまる。
50万キロワット級となると五島列島沖の風車(1基2000キロワット)が1カ所に250基必要となる。海外並みに1基1万キロワットに大型化しても50基が必要だ。“一足飛び”の印象を受けるが、自然エネルギー財団の倉科昭彦連携コーディネーターは「50万キロワットにしないと課題が具体化しない。1基でできたことが50基でできるとは限らない」と力説する。
日本では数基から導入して拡大するのが定石だ。だが、風車の製造から輸送、海上での設置作業を考えると1基と50基では工程が異なる。普及を見据えると初めから大規模化し、課題を解決しておくと大量導入がスムーズになる。コストダウンも図れる。
海外が大規模化
世界との規模の差も懸念だ。欧州では1カ所100万キロワット級の浮体式洋上風力発電所が計画されるようになった。1基1万キロワットだと1カ所に100基が林立することになる。英国では11海域で合計1500万キロワットの開発も計画されている。
海外が大規模化に突入した中で「日本が1基や2基を発注しても、海外の風力発電メーカーにとってロットとして魅力がない」(倉科氏)。韓国にも1000万キロワット級の浮体式の建設計画が持ち上がっている。造船所は洋上風力の製造拠点としても適しており、メーカーは生産拠点としても韓国を優先する可能性がある。日本企業が量産できれば心配はないが、現状では大型風車の実績がある海外メーカーに頼るのが現実的だ。
提言書は政府が意欲的な数値を示すべきだとも指摘し、30―35年にかけて最低でも1000万キロワット以上の浮体式洋上風力発電の商業運転も求めた。海外メーカーに対し、日本にも市場があることを認識してもらう狙いだ。海外メーカーが日本に投資し、製造拠点を構えるとサプライチェーン(供給網)が形成されて国内産業の活性化にもつながる。また「数十基が稼働すると収集できるデータが膨大となる。そのデータを解析すると、日本の産業界も浮体式の基幹技術を獲得できるのでは」(同)と期待する。
ほかにも提言書では認証や技術基準を国際ルールに合わせることも訴える。日本独自を追求すると、海外メーカーにとって認証取得が手間だ。さらに送電線の整備計画立案や事業者による整備費用の負担軽減、入札手続きの変更も提案した。
政府は20年の時点で30年までに1000万キロワット、40年までに最大4500万キロワットの導入計画をまとめた。23年末で15万キロワットにとどまっており、計画との開きが大きい。
また日本風力発電協会は50年に洋上1億キロワット、陸上4000万キロワットの導入量になると6兆円の経済効果があると試算する。自然エネルギー財団も水深300メートル未満の日本周辺海域に最大9億5200万キロワットを導入可能とする。倉科氏は洋上風力が「巨大エネルギー産業になる」と見通す。実現のために、初めの一歩を大きく踏み出す必要がある。