福岡の産学官が挑む「宇宙日本食」のこだわり
宇宙食の開発が福岡県で進んでいる。県内で食品関連事業を手がける3者が目指すのは宇宙航空研究開発機構(JAXA)の「宇宙日本食」認証の取得だ。既存商品を生かしたり産学で連携したりと内容はさまざまだが、認証後の構想には共通点がある。福岡県は県内発の宇宙関連製品・サービスの創出に向けて開発を後押しする。(西部・関広樹)
福岡県は「宇宙日本食」の開発に対し、ワークショップ開催や検査試験の費用助成、アドバイザー設置などで支援してきた。県内では産学官組織「福岡県宇宙ビジネス研究会」の会員らが開発に取り組む。
雑穀米販売を主力とするベストアメニティ(福岡県久留米市)は、既存のレトルト商品「雑穀ぜんざい」をベースに開発した「スペース雑穀米ぜんざい」を完成させた。
「国産素材へのこだわり、おいしさを追求した雑穀の配合」(新幸恵商品開発部部長)という同社の特徴を出せるほか、開発期間を短くできることから既存品をカスタマイズした。ぜんざいを選んだのは、すでに認証されている宇宙日本食との重複を避けるためだ。
通常品の「雑穀ぜんざい」との違いは甘みや粘度。宇宙では味を感じにくくなるとされており、試食を重ねて甘さを増した。液体が飛び散らないように、とろみも付けた。素材の配合もベース商品とは少し変えている。
認証に向けて進めるのが製造工場での虫など異物混入対策だ。設備の増強などによって管理体制を強化する。
学校法人中村学園の中村学園事業部(福岡市博多区)は、カボチャとニンジンを使ったポタージュを開発中。同事業部は学校や病院などの給食業務や社員食堂を手がける。グループの中村学園大学は食分野に強く、同大教員が開発を支援する産学連携の体制で進む。
開発にあたり、宇宙飛行士に関する論文も参考にする。ポイントは、うま味や栄養価の高さ、安全・安心などだ。同事業部経営企画本部の飯田純次長は、さまざまな人が宇宙に行けるようになる将来を視野に「病人向け宇宙食も開発できるかもしれない」と見込む。
福栄組合(福岡県久留米市)は、福岡の地鶏「はかた地どり」を使った既存レトルト商品「はかた地どりともち麦のお粥(かゆ)」の内容を変えずに認証取得を目指す。同組合は、はかた地どりの養鶏から鶏肉の処理、販売まで手がけ、加工食品も製品に持つ。
はかた地どりの機能性に着目した研究にも力を入れてきており、機能性表示食品として認められた実績もある。宇宙食としては高タンパクや低脂肪、他の宇宙食と一緒に食べやすいことも特徴になるとみている。
各事業者に共通するのは、災害などに対応した非常食の製品化につなげることだ。宇宙食に求められる保存性の高さは非常食にも共通する。ベストアメニティはアウトドア向け食品としても可能性があるとみており、中村学園事業部は事業継続計画(BCP)と関連付けた提案も視野に入れる。