東電が燃料デブリ取り出し延期…ロボアームの精度足りず
カメラ追加で再挑戦、準備期間に釣りざおロボ投入
東京電力は福島第一原子力発電所の燃料デブリ“取り出し”の着手時期を延期した。原因の一つは取り出し用のロボットアームの制御精度が足りない点だ。制御プログラムの修正では不十分だったため、アームの先にカメラを追加して再挑戦する。この準備期間を利用して釣りざお型のロボットを投入してサンプルを採取する。これを“試験的取り出しの着手”として取り出し目標達成に数える。(小寺貴之)
「燃料デブリと思われる堆積物をつかんで動かせることを確認できた」―。2019年2月に釣りざおロボを投入して小石のように見えるかけらをハンドで挟んだ際、東電はデブリ取り出しへの一歩の重みをこう説明した。当時の担当者は「小石のように見えても実は軟らかいかもしれない。だが硬そうなかけらが硬かった。そんな小さな一歩だが、踏み出せた」と目を細めた。この10カ月後の19年12月に“取り出し開始”の目標が21年内の“試験的取り出しの着手”に変更された。
“試験的取り出し”は微量のサンプル採取を含む。“着手”はその準備を含めた活動を指す。“試験的取り出しの着手”への変更で燃料デブリの取り出しに向けたサンプル採取を始めることが目標になった。このサンプル採取さえ困難だったため、目標は24年10月に延期された。福島第一廃炉推進カンパニーの小野明代表は「本格的なデブリ取り出しは30年以降」と説明する。
10月には釣りざおロボを投入して燃料デブリと思われる堆積物を回収する。5年前は原子炉建屋から安全に持ち出す手法が確立しておらず、つまんだかけらは元に戻した。5年を経て、つまんだかけらを持ち出すことが取り出し目標となった。
原因は取り出し用ロボットアームを挿入する入り口に溜まっていた堆積物とアームの精度が足りない点だ。入り口の堆積物は時間をかければ除去できる見通しがある。アームの精度は制御プログラムを改良したが必要な精度には足りていない。
このアームは22メートル先に10キログラムの調査装置を届ける。アームの根元で自重を支えるため、テコの原理で負荷は大きくなりアームがしなる。原子炉格納容器内の狭隘(きょうあい)空間を通過させるために、しなりをシミュレーションして補正制御を試みた。結果として小野代表は「ときどき目標の範囲内に入る程度。安全性を優先する」として延期を決めた。対策としてアームの先にカメラ2台、照明3台を追加して視認性を向上させる。可搬重量は犠牲になるが操縦者が確実にアームを操作できるようにする。
入り口の堆積物は堆積順に元素を分析すると事故時に何が起きたか時系列に調べる手がかりになる可能性がある。ただ取り出し目標を優先し、堆積物は高圧水で洗い流す。ロボットアームの開発には78億円の国費が投入された。アームによる燃料デブリへのアクセス方法の確立は最重要課題だ。この重みが柔軟性や選択肢を狭めていないか検証が必要になる。