「iPS細胞2・0を作りたい」…京大が3年以内に「次世代型」完成へ
次世代型、3年内完成目指す
京都大学iPS細胞研究所(CiRA)によるiPS細胞(人工多能性幹細胞)の研究成果が目に見える形になってきた。次世代型のiPS細胞のプロトタイプの開発にめどが立ち、今後3年内に完成を目指す。iPS細胞を活用した有望な用途研究も育ちつつある。動物向けiPS細胞の開発が報告されるなど充実かつ多様性を帯びてきている。(大阪・石宮由紀子)
「iPS細胞2・0を作りたい」―。高橋淳CiRA所長は、次世代型として開発中のiPS細胞について「2・0」と表現する。現在のiPS細胞を1・0とし、1・0で課題としている部分をクリアしながら2026年近傍にプロトタイプを披露する考えだ。 1・0の課題は、樹立効率や分化効率の低さだ。分化誘導した際に必要とされる細胞が90%以上含まれるiPS細胞の作製技術確立のため現在、鋭意研究を進めている。
次世代型を開発するに当たり、これを支えると考えられる技術の開発も大詰めを迎えている。CiRAの小松将大大学院生や斉藤博英教授らは、抗体を用いて細胞内の標的を認識し、特定のRNA(リボ核酸)ポリメラーゼにより遺伝子発現を制御する技術を開発した。この研究について斉藤教授は、「iPS細胞の選別に役立つのではないか」と話す。
iPS細胞が治療に適用されることへの期待から、支援団体から多額の研究助成も寄せられた。糖尿病患者の治療を支援する日本IDDMネットワーク(佐賀市)は、2400万円を寄付。長船健二CiRA教授らによるヒトiPS細胞(人工多能性幹細胞)由来の次世代型「スマート膵島(すいとう)」作製を後押しするねらい。「開発中の次世代型iPS細胞を使用する」(長船教授)ことが研究の鍵になるという。
長船教授の成果についてはこのほど、肝臓領域でも進展が見られた。島津製作所と長船教授が最高科学顧問を務める京大発スタートアップのリジェネフロ(京都市左京区)、CiRA、東洋製缶グループホールディングス(GHD)が、iPS細胞を用いた肝硬変に対する細胞療法開発に向けた共同研究契約を結んだ。
不妊治療、適用視野に研究
この他、不妊治療に対する適用を視野に入れた研究もある。斎藤通紀京大教授はヒトの胎児卵巣から卵子の元の卵母細胞を含む原始卵胞を体外で培養することに成功した。iPS細胞の発見者である山中伸弥京大教授は、iPS細胞研究で協力関係にあり斎藤教授と大阪科学賞の受賞者という共通点がある。山中教授は「iPS細胞や胚性幹細胞(ES細胞)から作製した生殖細胞を使い、不妊や遺伝性疾患のメカニズムの解明を目指している。倫理的課題が伴う研究でもあるので、社会との対話を進めながら研究が行われ、不妊などに対する治療法の開発に貢献することを期待している」と話す。
ヒトiPS細胞の研究の進展にあわせて、動物向けでも動きが出ている。大阪公立大学の鳩谷晋吾教授や塚本雅也客員研究員は、アニコム先進医療研究所(東京都新宿区)、ときわバイオ(茨城県つくば市)と共同で、イヌの尿由来細胞と計六つのイヌの初期化遺伝子を使い従来法の約120倍の効率でイヌiPS細胞の安定的な作製に成功した。研究チームはイヌの再生治療のほか、治療や動物実験での代替となるようなオルガノイド(生体外3次元細胞組織)作製にも役立てたい考え。イヌのほか、ネコでの研究も進めている。
動物向けiPS細胞の研究はヒトと比べて、10―20年の後れを取っているという。鳩谷教授は、「ヒトiPS細胞の研究が進めば、それにあわせて動物でも研究が進んでいく」と期待を寄せる。「この数年、目立った動きがない」と辛口な評価が付けられていたiPS細胞研究。だがこの1―2年で次の展開へとつながる報告が相次いだ。24年は研究の加速が期待できそうだ。