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トヨタ新経営体制2年目へ、事業好調も影落とすグループ企業の品質問題

トヨタ新経営体制2年目へ、事業好調も影落とすグループ企業の品質問題

ジャパンモビリティショー2023でEVコンセプトモデルのFT-Se㊧とFT-3eを紹介する佐藤社長(23年10月25日)

トヨタ自動車の新経営体制が2年目を迎える。豊田章男会長が構築した強固な収益基盤を基に、車の電動化や「ソフトウエア定義車両(SDV)」といった知能化、水素社会の実現などに取り組む。2023年に組織体制や方向性を示しており、24年は具体的な進捗(しんちょく)が期待される。一方、好調な事業に影を落とすのはグループ企業における相次ぐ品質問題。企業統治(ガバナンス)の再確認が急務となる。

ジャパンモビリティショー2023でEVコンセプトモデルのFT-Se㊧とFT-3eを紹介する佐藤社長(23年10月25日)

23年、トヨタは経営体制を刷新した。09年から同社をけん引してきた豊田章男氏が会長となり、新たに佐藤恒治氏が社長に就いた。豊田会長が進めたのは、商品の競争力を高める「もっといいクルマづくり」や、地域ニーズに適した商品を展開する「町いちばん」の活動だ。損益分岐台数の引き下げといった筋肉質な体質づくりも相まって、トヨタの財務基盤はかつてないほど強固になっている。24年3月期連結業績予想では売上高43兆円、営業利益4兆5000億円と過去最高を見込む。

この収益基盤を強みに、トヨタは車が社会とつながり新たな価値を創出する「モビリティーカンパニー」へのフルモデルチェンジにかじを切る。「継承と進化をテーマに創業の理念を大事にしながら新しいモビリティーの形を示したい」。豊田会長から経営のバトンを引き継いだ佐藤社長は就任に際し、こう宣言した。同社は地域のエネルギー事情に応じたパワートレーン(駆動装置)を提供する「マルチパスウェイ」が戦略の1丁目1番地。これを前提に目下の課題である、競争力の高い電気自動車(EV)の創出に挑む。

トヨタ自動車が元町工場(愛知県豊田市)で開発中の自走式組み立てライン。次世代EVでの導入を目指す

最大市場の中国では新興メーカーが攻勢をかける中、トヨタのEV販売は振るわない。事業をテコ入れすべく、23年5月にEV専門組織の「BEVファクトリー」を設立。中国・常熟市の研究開発子会社「トヨタ知能電動車研究開発センター(中国)」に、広州汽車集団、第一汽車集団、比亜迪(BYD)など現地合弁会社の開発人材を加え、研究開発領域を増強した。7月には車体部品を一体成形する技術「ギガキャスト」や、EVの車台が組み立て工程を自ら移動する「自走式ライン」などの生産技術を披露。大胆な新手法を取り入れEV関連事業を強化する姿を示した。

車に新たな価値を付加する上でカギとなるソフトウエアでも手を打つ。車の基本性能である「走る・曲がる・止まる」に加え、車内でのエンターテインメントなどデジタル技術を活用した新たな体験価値が求められている。ソフト開発を手がける部署や人材を集約した「デジタルソフト開発センター」を10月に新設し、デンソーやソフト子会社のウーブン・バイ・トヨタ(東京都中央区)とも連携を加速する。

電池分野でも出光興産と全固体電池の27―28年のEV搭載に向け協業に着手。全固体電池の核となる固体電解質の量産技術開発や生産体制の確立、サプライチェーン(供給網)構築に取り組む。豊田自動織機とは、調達しやすく安価なリン酸や鉄を使う「バイポーラ型リン酸鉄リチウムイオン(LFP)電池」に加え、空力性能や軽量化による車両性能の向上によって航続距離1000キロメートル超を目指す「次世代電池ハイパフォーマンス版」も開発しており、電池分野でも「選択肢」を広げている。

先行投資が重く、収益化に時間がかかるEVや新技術だが、トヨタは確固たる収益力でそのリソース(資源)を生み出す。24年以降も電池や水素、ソフトなどの分野の戦略投資が増えそうだ。

品質問題 ガバナンス総点検、徹底図る

ダイハツによる認証試験不正の影響拡大が懸念される(ダイハツ本社〈大阪府池田市〉の立ち入り検査に向かう国土交通省職員=23年12月21日)

堅調な事業とそれを支える基盤、未来への種まきも着実に進める中、足をすくわれかねないのがグループ企業による品質問題だ。日野自動車のエンジン認証不正を皮切りに、豊田自動織機のフォークリフト用エンジンの排ガス認証不正、ダイハツ工業による安全試験での不正と、問題が相次いでいる。不正ではないが、デンソー製燃料ポンプの不具合の影響の拡大も懸念される。

トヨタグループではガバナンスの総点検を進めており、23年5月にはグループ各社の首脳を集めた会合を実施。グループ企業や仕入れ先から直接、製品の安全性などに関する内部通報を受け付ける相談窓口を設置するなどコンプライアンス(法令順守)やガバナンスを再度見直している。

ダイハツ問題の第三者委員会による調査報告はそのさなかであり、新たに174の不正行為が判明した影響は大きい。23年4月に安全性を確認する側面衝突試験での不正を公表し、うみを出すための第三者委員会設置だったが、想定以上の件数に「驚いた」と話す業界関係者は少なくない。

日野自やダイハツの問題では、開発部門の中に認証セクションがあったことも不正につながる一因となった。また、開発や工場の生産現場での不正ではないものの、トヨタが生産現場で最重要視する安全や品質が、なかなかグループに浸透していない状況も明らかになった。グループとはいえ、各社の社風や置かれている状況は異なるが、まとめる立場にあるトヨタには各社へのガバナンスの徹底が求められている。


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日刊工業新聞 2024年01月04日

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