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井戸1本で数万kW級以上を発電、NEDOが挑む「超臨界地熱資源開発」の現在地

井戸1本で数万kW級以上を発電、NEDOが挑む「超臨界地熱資源開発」の現在地

※イメージ

40―50年事業化へ

新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)を中心に進める1本の井戸で数万キロワット級以上の発電を実現する超臨界地熱資源開発の構造調査試錐(パイロット井)掘削が始まる。海外ではアイスランドが噴気を実現。米国、ニュージーランドも開発に着手している。次世代再生可能エネルギーとして2040―50年と見られる事業化に向け、いよいよ深部掘削のステージに入る。(いわき・駒橋徐)

超臨界地熱層の賦存図

NEDOは18年から超臨界地熱資源開発を開始。ポテンシャル調査を踏まえ、20―21年度は4地域に絞り込んで資源量の評価を実施した。現在、調査井掘削を目指した開発のフェーズ2(25年度まで)の段階にある。ロードマップではフェーズ3で調査井掘削、フェーズ4で実証試験の事前検討、フェーズ5が実証試験だ。このうちフェーズ2目標であるパイロット井1カ所の選定が間近になった。

候補の4地域は岩手県・八幡平、同・葛根田地域、秋田県・湯沢南部地域、大分県・九重地域。八幡平は三菱マテリアルテクノ(東京都台東区)、葛根田は産業技術総合研究所福島再生可能エネルギー研究所(FREA)をリーダーとする10者、湯沢南部は日鉄鉱コンサルタント(東京都千代田区)、九重は九州大学、西日本技術開発(福岡市中央区)を中心に13者が進める。

パイロット井は超臨界地熱貯留層上部の深度3000―4000メートルまで掘削。高温環境下の掘削法やボーリングの資機材、耐熱セメント材などを評価する。そして30年に調査井の掘削を完了。流体性状や挙動の確認、1本の蒸気量を噴気試験などで検証する。NEDOは超臨界地熱資源をより高い精度で検出可能な調査法として、光ファイバーで地震波を計測するシステムを開発中だ。

FREAのグループは18年度から葛根田地域で超臨界地熱資源量の評価を進め、相当量の資源の賦存を期待できることが判明。地下3000メートル程度の花崗岩内部に、想定に非常に近い超臨界地熱貯留層が形成している可能性が極めて高いことが分かってきている。貯留層は谷の斜面下部に賦存しており、掘削する場合は近くの平坦地から斜めに掘り、ほぼ2500メートル掘削することになりそうだ。

Think GeoEnergyの資料を基に作成

調査井は3100メートル程度までの掘削になるとみている。パイロット井の掘削が実現すれば井戸は8・5インチ径となる見込みで、1日30―40メートルでの掘削を想定する。NEDOは掘削コストについて構造試錐井1本で数十億円とみる。調査井掘削のコストはテストも含むと、かなりの額が必要で100億円以上の可能性もあるという。

30年代からの生産井開発のためのシミュレーションにおいて、NEDOは井戸1本で3万―4万キロワットの発電が実現可能とし、葛根田地域では10万キロワット級の実現可能性が高いと見ている。事業化に向けFREA再生可能エネルギー研究センターの浅沼宏副研究センター長は「現在の地熱発電コストである1キロワット時15円程度かそれ以下を目指す」とする。

NEDO新エネルギー部熱利用グループの近藤洋裕主任は「40―50年の事業化で1地域10万キロワット級の発電所を実現するため、さまざまな企業・研究者の新規参加を期待する」と話す。

日刊工業新聞 2023年12月27日

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